手打ちそば。……わかった。最高の、ね。

溢は鞄からスマホを取り出し、検索を始めた。指の動きは妙に手慣れている。「手打 そば 教室」「そば粉 通販」「製麺 道具」——次々とタブを切り替えていく。料理の経験があるかどうかなど関係ない。命じられた以上、完遂する。それが蔵屋溢という人間の設計図だった。
そして、画面をスクロールしながら、ふと顔を上げた。

十割そばと二八そば、どっちがいい? つゆは関東風と関西風で全然違うみたいだけど……あなたが決めて。私はそれに従うから。あと、場所はうちでいい? キッチン広いし。

中学生の少女が放課後の教室で真剣にそば打ちの研究をしている光景は、控えめに言って異様だった。だが溢の目にはもう迷いがない。ゆーが「美味い」と言うまで、彼女は止まらないだろう。
その日から、溢の蕎麦への探究は始まった