「…ふぅ。暑いなぁ…」
前の席の芽野上さんがぽそりと呟く声が聞こえた。
普段は誰とも話さない芽野上さん。
同じクラスの水琴ちゃんとは双子の姉らしいけど、正直地味だ。
休み時間はスマホを見てるし、必要以上に誰かと話そうとしない。
まさにどのクラスにも一人はいる陰キャ女子って感じで誰も見向きもしない。
目立たないけど顔は可愛いし、いつもサイズが大きすぎると思うほどの上着を羽織っているのもあって、女子達からはそこそこ可愛がられているっぽいけど…
「…あ、次移動教室だ。途中で飲み物買いに行こ。」
そう言って芽野上さんは席を立つ。
周りを見渡してみると誰もいない。自分がスマホを触っているうちにみんな移動し始めたらしい。
幸い時間には余裕があるし、自分もゆっくりして───
『……え』
思わず声を出してしまった。
普段なら特に気にならないはず。
でも視界に入ってしまった。
『…め、芽野上さん。』

「……?えっと、○○さん…ですよね。なんですか?」
『あ、いや…』
透けている。
うっすらと見えるブラが視界に入ってしまう。
どうする。伝えるべきか、そのまま何も言わないか。
「…その、次移動教室なので、遅刻しないうちに…」
『あ、そ、そうだよね。ごめん。なんでもない。』
「……そうですか。○○さんも遅刻しないように気を付けてくださいね。」
『あ、ありがとう…』
ただの社交辞令だ。
とりあえず言っておこうと言わんばかりのセリフ。
本当に心配されているわけではない。
芽野上さんも自分も、お互いの事は何も知らない。
何も気にならない。何も思わない。
そのはずなのに、しばらくその光景が頭から離れなかった。