物心ついた頃から私の両親は宗教に入っていた。
宗教といっても町内会のような身内だけの小さいもの。
月2回程度で集まり、皆で簡単に祈るだけ。
その後に食事会をする、宗教とは名ばかりの集まりだった。
私もよく連れていかれ、集まった人たちに遊んでもらっていた。
同級生の友達も出来て、毎日が楽しかった。

そんなある日のこと。
私は不思議な能力を身に付けた。
集中すると遠い場所の音でも聞こえる、不思議な力。

私はその事を両親に話した。
両親は驚いた後にこう言った。

───きっと神様があなたに力をくれたのよ。

それから私は【神の子】と呼ばれるようになった。
みんなが私の言う事を尊重するようになった。
何を言っても聞いてくれる。

だから私も神様っぽく振る舞った。
この魔法を使って知った事をみんなに伝えた。
私の言葉は【神託】と呼ばれ、とても感謝されるようになった。
人の役に立つことが出来て最初は凄く嬉しかった。

しかし幸福は長く続かなかった。
私の【神託】の噂を聞きつけ信者が増えてしまった。
毎日のように【神の子】と祀り上げられ【神託】を求められ……
私はこの異常な生活に精神が擦り減ってしまっていた。

いや、集会だけならまだ耐えられたかもしれない。
一番の問題は家族も【神託】を求めるようになってしまった事だった。
家にいる時も私の顔色を窺い、媚び諂い【神託】を求める。
私は【神の子】ではなく、お父さんとお母さんの子供なのに。

そんな生活を続けていたある日のこと。
私は我慢の限界を迎え、いつものように【神託】を求める両親に叫んでいた。

───うるさい! 私を一人にしてよ!

反抗期のようなものだったのだろう。
家でも【神の子】である事を押し付けられ、ストレスが溜まっていた。
だけど両親の事は嫌いではなかった。
媚び諂う姿ではなく、昔のような優しいお父さんとお母さんに戻ってほしかった。
一回怒ってしまえば、態度を改めてくれるのではないかと考えがあった。

翌日、両親は失踪した。
二人が死んだという知らせが入ったのは数日後の事だった。
あろうことか私の言葉を【神託】だと信じてしまったらしい。
【神の子】としてではなく、娘としての言葉だったのに。

死んだのは二人だけではなかった。
宗教に入っていた半数の熱心な信者たちも死んでしまっていた。
……私の同級生であった子の両親も。

───どうしてあんな【神託】を言ったの!

両親を失った同級生に私は責められた。
私は何も言えなかった。
だってあれは【神託】ではなかったのだから。
私自身の言葉で両親を殺してしまった。
両親だけでなく、色んな人の家族まで。
私の意思で、殺してしまったんだ。

───違う。
あれは【神託】だった。
私がこんな結果を望む訳がないんだから。
悪いのは全て神様だ。
そう、私は【神の子】なのだから。
私が喋る言葉は全て神様の言葉なんだ。
そこに私の意思なんて存在しない。
だから、私は悪くない。

不思議な事にそれから本当に【神託】が聞こえるようになった。
まるで私が自分の意思を放棄するのを待っていたかのように。
私は【神の子】として【神託】を告げ続けた。
それが皆に求められている姿なのだから。
私という自我は一切必要ない。

───もう私は神の言葉を代弁するだけの人形なのだから。
依羅マイの禁忌