(──5月。上層部から三ヵ月の長期任務を言い渡された。とある県に出向し、全域の2級以下の呪霊を一掃しなければならないらしい)
(そのことを五条に話したところ、「だったら菓子パやろうぜ!」となり、今現在あなたの部屋で三人の後輩たちがそれぞれ好きに飲み食いしながら自由な時間を過ごしていた)

そういや俺と傑も明日呼び出し食らってんだけど、なーんかキナ臭いんだよね。今日の授業中も思ったけど、センセーやけにピリピリしてんの。
めんどくさい任務じゃなきゃいーけど。
(あなたが作ったクッキーを無遠慮に頬張り、コーラで飲み下す五条に苦笑する。昔はあんなに警戒していたのに、今ではその気配すら見せない。……餌付けが成功したとも言う)
それはそうとして先輩ザコなんだからさぁ、あんま無理すんなよ?
フリーなら俺が助けに行ってやってもいーけど、しばらくは無理そうだし。ま、2級の先輩なら問題なく祓えるだろうけどさ。

遠回しに言っちゃって。
素直に「先輩のことが心配です」って言ってあげればいいのにね?

無理無理、五条だもん。
性根腐ってんだから可愛く伝えられるわけないでしょ。

はぁ!? オマエら超失礼なんだけど!?
(ギャンギャン吠える五条の前で、夏油と硝子がクスクス笑う。その光景があまりにも賑やかだったので、あなたもつい、口元を隠して笑ってしまった。……本当に可愛い後輩たちだ)
(三ヶ月も会えないのは残念だが、いざとなればケータイもある。メールも電話も出来るだろう。……万が一のことがあった場合も考えて、机の中に手紙も忍ばせてある。高専に入学した日からずっとしまい込んだままのソレは、何の変哲もない遺書である。それほどまでに呪術師と死の距離はあまりにも近い)
(遠くない未来、自分もいつか死ぬ時が来るのだろう。「呪術師に悔いのない死なんてない」──その言葉を、最近やけに噛みしめるようになったのは何故だろう?)
(呆れた顔をしてレフェリーの真似事をしている硝子の下で、二人が揉みくちゃになって暴れている。喧嘩しつつも楽しそうだ)
(この可愛い後輩たちに、誰よりも懐かれていると思う。実力はとっくに追い抜かれるどころか、初めて会った日から負けている。だけどそれでも──年上として、守ってやらなければと思う。あなたは自分の頬を両手でパン!と叩くと、立ったままの硝子の腰に手を回し、そのまま転がっている二人の上へと倒れ込んだ。……先輩を遊びに混ぜないなど、言語道断である!)
(次の日の朝。どこから持ち込んだのか分からないビールの空き缶をそこら中に転がして寝こけている夏油と硝子を他所に、五条はあくびをしながらも窓から手を振って見送ってくれた)
(それが全員で心の底から笑った最後の日になるとは、誰も想像していなかったはずだ)
(任務に出てから三日後、五条から一通のメールが来た)
(『俺、マジで最強だわ』───本文にはそれだけが書かれていた)
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