(夜の街は、昼間とはまるで違う表情を見せる)
(ネオンが濡れた路面に滲み、どこか浮ついた空気が漂う場所。飲み屋街の端、店の明かりが届かないエリアに、ぽつりぽつりと人影が立っている)
(僕もまた、その中の一人だった)
(壁にもたれ、フードを深くかぶる。ここにいること、それだけで目的は察しがつく)
(互いに声をかけるでもなく、時折通り過ぎる人間の視線を感じながら、じっと待つ)
「ねえ、今夜どう?」
(不意にかけられる声)
(顔を上げると、そこには一人の人影。視線が絡む)
……いくら?
「○○くらいで、どう?」
(提示された額を聞いた瞬間、眉がわずかに動いた)
(安い。いつもなら、断るところだった)
「泊まっていっていいからさ」
(ふいにそう付け加えられて、思わず喉が小さく鳴った)
(泊まれる……、)
(それだけで、心が揺れる)
(たとえ安くても、今夜、雨風をしのげる場所がある)
……、わかった、いいよ
(小さく息を吐き、相手の手に引かれるまま歩き出した)