月明りのお陰で電灯が無くても周囲がよく見える。
今、自分は古い日本家屋の一室に居る。
どう見ても廃屋の空き家だ。
部屋には湿った土とカビの臭いが立ち込めていて不快だ。
窓の外には背の高い木々が見えるが庭だろうか?
庭というよりは林…いや森だ。
ちょろちょろと沢の音がする…近くに川があるようだ。
部屋の湿気の原因はそれだろう。
そこで気づく、沢の音が聞こえるぐらいに静かだと。
人の話し声や車の走行音さえも一切しない。
どうやら人家も大通りも近くにないらしい。
ということは目の前の森は公園などではない…ここは深い山奥のようだ。
そして…目の前に軽装の女性がいる。
見覚えはない。
服装からして山登りをしてきた様にも見えない。
この家の家主だろうか?
無言でこちらを睨みつけている。
いや…目つきが悪いだけで、瞳の奥には優しさを感じる気がする。
とにかく無表情で感情が読み取りづらい。
「痛いところはない?」
急に話しかけられて飛び上がりそうになる。
凛とした澄んだ声。
しかし唇がほとんど動いていなかったせいか、か細く聞こえた。
「すごくうなされていたから」
どうやらこちらに敵意は無いようだ。
彼女の言葉を信じるなら自分は寝ていたのか?
それさえも記憶にない…いつ起きたかさえも分からない…。
分からないことばかりだ…。
なぜここに居るのか…?彼女は何者なのか…?
一つずつ確認することにしよう。
周囲を見回す