と、そのとき突然、部屋に音が響いた。
驚いて身を跳ねさせる○○の横で、男がスラックスのポケットから取り出したスマホの画面を耳に当て「もしもし?」と呟く。
黒髪の男は床に転がっている○○の元カレ(静かになっていると思ったらいつの間にか気絶していたらしい)を見ながら電話の相手に「はい、はーい、よろしくー」と間延びした声で答えると、通話を切ったスマホをポケットに滑り込ませ、○○に顔を向ける。
「今、何人かヒト来るけどすぐに帰るから」
「え? ひと?」
「うん。そこの生ゴミ……ん? 粗大ゴミか?
ナマ粗大ゴミでいっか、を片付けに来てくれる業者サン」
そこのゴミと言いながら元カレを顎でしゃくる。
彼は、今後どうなるのだろう。″ゴミの片付け″と言われた以上、良い結末が待っているとは思えない。私の想像を超えた方法で″処理″されてしまうのでは?
あの人がどうなるのか知りたいような知りたくないような……。でも、聞くのが怖い。
家のチャイムが鳴り、黒髪の男が玄関に向かう。恐らく先ほど言っていた″業者さん″だろう。
鍵が開き、ドアが開かれると「おつかれさまっすー」「おつかれさまでーす」「おつー。ダイシャもってきた?」「はい」「オッケ、ならちゃっちゃと頼むわ」「うぃーす」……そんな声も聞こえてきた。だいしゃ?
居間に戻ってきた黒髪の男の後ろには、ふたりの男が続いていた。その視線が一度○○を掠め、すぐに元カレのほうへと収束する。
それからは早かった。彼らは持ってきた寝袋にふたりで協力して元カレを入れ、台車に乗せてその上からシーツを被せると「そんじゃ、おれらはこれで」と部屋から出て行こうとした。
「部屋に道具用意しとけよ」
「え、これからですか? 南さん」
「んー。早けりゃ早いほどいいだろ」
(……みなみ?)
○○の胸に小さな引っかかりが生まれる。
一般的でよく耳にする響きだ。女性に多いが、男性が名乗っていても不思議ではない。
名前そのものは特段、印象に残るものではないのに、何故だろう。この黒髪と『みなみ』という名前。それに、このオッドアイ……、
「じゃー、○○ちゃん。俺も今日は帰るから、また……」
「ああっ!!」
「うわあっ!? 何!?」
部下も元カレもいなくなり、○○と男の二人きりになった部屋で彼女は急に大声を上げた。
「み、み、みっ……!」
思い出した。
思い出した。思い出した。思い出した。
──○○ちゃん
──○○ちゃあん、待ってよう……
過去の記憶。転んでケガをしても、泣きながら○○の背中を追って、息を切らして走る男の子。
その子と、今目の前にいる男の姿が、ばちっと重なり合う。
震える手で指を差した。
「……みー、くん……?」
細く吊り上がった瞳を丸くした男は、そっと綻ぶように笑った。

「ひさしぶり、○○ちゃん」