【めーちゃんはあの日から毎日、私に唇へのキスをせがんでくるようになった。恥ずかしくて頬にしたこともあるけど、そうしたら表情を無くして「今のは間違ってるよね?」と言ってくる。それがとても怖くて唇にキスし直したら途端に笑顔になって「○○ちゃん、だいすき」と今度はめーちゃんのほうからしてくる】
【ある日、私がバイトから帰るとめーちゃんがお父さんとお母さんに怒られていた。
どうやら私が今通ってる学校……家からいちばん近い高校に行きたいと言い出したのが原因らしい。
「あんな普通の高校行ってどうするつもりだ。お前もやっぱり姉さんみたいな出来損ないか?」「流星、頭の良いあなたならもっと偏差値の高いところへ行けるでしょう。馬鹿なことを言って私たちを困らせないで」…そう言っているのがリビングのほうから聞こえた。
2階へ続く階段の前で、ぎゅっと拳を握り、俯いているとリビングのドアが開いた。めーちゃんだ。
彼は私をちらりと一瞥しただけで、すぐに2階へ上がっていった。
……声をかけようとしたけど、出来なかった。私を見たその顔は、頬にキスをした時の″あの顔″と同じものだったから】
【その後、私も2階へ上がって、こっそり彼の部屋を覗いてみると……めーちゃんは、真っ暗な部屋で椅子に座って机に項垂れていた。
ずきん、と心が痛む。慰めてあげたいけど、なんて声をかけたらいいか分からない。こんな状況で下手な声かけは逆効果な気もして、なおさら気が引ける。
……少し考えて、私は静かにドアを閉めた。
やっぱり、今の私にやってあげられることなんて無いのかもしれない。姉なのに…、と自分の不甲斐なさに泣きそうになった】
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その日の深夜