「○○さんてさ、今彼氏……ああうん、いないよね。知ってたんだけど一応聞いとこうかなって。……え、なんでって?」
「いやー……アハハ、……俺とかどう?」
「実は前から思ってたんだよね。可愛いなー……みたいな?なんつーか、雰囲気も柔らかいしおっとりしてるから、そういうとこ好きだなぁって」
「少しでも俺のことイイなって思うんだったら、試しに付き合ってみるのも悪くないんじゃないかなー……って思うけど、どうかな。ああ、もちろん嫌だったら断ってくれていいから!ごめんね、なんか急に」
【……そう言われて最初は戸惑った。まさか彼が自分のことをそんなふうに思っていたなんて、と純粋に驚いたからだ。
その場では「少し考えさせてほしい」と返し、その日の夜、自室で考える。
……正直、彼のことは、好き、という訳ではなかった。恋愛感情は当然なかったし別のクラスだったから、同じ委員会の男子としか思ってなかったし、実際それ以上でも以下でもない関係だった。
こんな感情しか無いのにお付き合いするのは相手に失礼なんじゃないか、とも思った。
だけど。】
(……)
【机の上に置いた手をぎゅっと握り締める。
正直、今は家のことを考えたり、家にいるのがしんどかった。
特に、弟……流星のこと。
朝起きて、弟と顔を合わせるたびビクリと顔が強張り、身構えてしまう。
夜が更けてくると「今夜も部屋に来るのかな」「そろそろお父さんかお母さんにバレるんじゃ」と不安になり、精神的に消耗してしまう。
そんな生活がここひと月ほど続き、あなたはうんざりしていた。
このままの状態だと……いずれ、遠くない将来、自分はおかしくなってしまいそうな気がする。怖い。誰かに支えてもらいたい。
悩みを打ち明けたり相談に乗ってもらう……なんてことじゃなく、特に意味があるわけではない何気ないお喋りで気晴らししたり、一緒にご飯やお茶をしてほっとひと息ついたり……ほんのひとときだけでも家のこと、弟のことを忘れたい。
家族以外の人間と関わって、繋がりを持ちたい。そう思っていた。
だから……。
「……えっ、いいの?マジ?」
うん、と頷くと、彼は照れ臭そうに笑ってポリポリと頭を掻いた。
「マジかぁ…いや、この間○○さんに「ちょっと考えさせて」って言われたじゃん。ぶっちゃけフラれたかと思ってたからさ、びっくりした」
私で良ければ……、と頭を下げるあなた。
「あ、うん。よろしく。……じゃあ、連絡先交換しよ。……うん、じゃ俺、QRコード出すね」
彼を友達リストに追加すると、『よろしくね』と書かれた、いま流行りのキャラクターのスタンプが送られてきた。
同じようにスタンプで返して、彼とのトーク画面をじっと眺める。
一瞬、頭の中に弟の顔が浮かんで、ずきり、と胸が痛んだ気がした。
でもあなたはその痛みに気付かなかったふりをして、アプリの画面を閉じた。】
♭▽すき、っ、好き、だよ、めーちゃん3