【助けを呼ぶことは出来なかった。
彼がいつの間にか持っていた果物ナイフを目の前に突きつけられて、叫び声の代わりに「ひッ……!」と短く息が漏れただけで終わってしまった。
氷のように冷たく、鋭い瞳に見下ろされて、がちがちと歯が鳴る。】

大きな声も、出さないでくれる?
おれだって○○ちゃんに痛い思いはさせたくないんだよ
……それに、
親なんか呼んでどうすんの
声を聞いてここまでやってきたとしても、きっと○○ちゃんを助けてはくれないよ
おれが「勉強熱心の姉さんに果物でも剥いてあげようとナイフを持ったら急に怯え始めた」とか適当なこと言えばあっさり騙されるよ。アイツら馬鹿だから
逆に、父さん母さんが来る前におれが服を脱いで「○○ちゃんに襲われた」って言えば、非難されるのはそっちのほうかもね
あの2人は″出来損ない″の姉なんかより勉強のできる弟の言葉を信じるだろうから
……百万歩譲って○○ちゃんを信じたとしても、おれが勉強や受験のストレスで血迷っただけだろうと、だからそんなことでいちいち騒ぎ立てるな、ご近所に迷惑だって怒られるのはきっと○○ちゃんのほうだ
分かるでしょ 自分の親なんだから
いつまでアイツらに期待してんの?
もういい加減諦めろよ。あの2人は○○ちゃんの味方なんかじゃない。もちろんおれの味方でもない
子供に対して愛情なんか無いって、ずっと前から分かってた筈だろ
……アイツらは馬鹿だけど、○○ちゃんはそうじゃないんだから
【私の額に、彼が自分の額を合わせ、お互いに向かい合う。
私は、自分がいつの間にか涙を流していることに、今気付いた。
彼の言葉は私の心を滅多刺しにした。そうされることで、ようやく受け入れることができた。
わかっていた。
わかっていた、わたしだって。
言われなくても、……気付いていた。
あの2人は、私が期待するに値しない人間だって。そんな人たちに期待していた自分の愚かさにも。
……ずっと昔から、気付かないふりをしていた。】
おれだけ
おれしかいないんだよ、○○ちゃんの味方は
彼氏でも親でもない
○○ちゃんの弟のおれだけが分かってあげられる、最大の理解者
……そうでしょ?
【とめどなく溢れる涙を流す私の目元にキスを落とし、抱きしめてくる。】
だから、もっと愛し合おう
これまで以上に仲良くなろうよ
……何があっても離れられないくらいの絆を、今作ろう
【彼は唇を重ねながら、私の服のボタンに手をかけた。】
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