(階下から聞き慣れた声がする。 これは、環くんの声?
声が纏う雰囲気がいつもと違うことが気になり、
私はついその場に立ち止まり、聞き耳を立ててしまった)


……ありがとう……君の……嬉しい。

……好き……だ。


(……距離があるため、話の内容はよく聞き取なかった。
でも、好き? ありがとう? 嬉しい……?
どういうことだろう。 今、彼は誰と話してるんだろう。

そのまま耳をすませると、女の子の声が聞こえた。
少し深刻そうな声音と思いきや、楽しげに笑ったりと、
会話の雰囲気は良さそうだ。

胸の奥がズキリと痛む。
足元から、ぽたりと雫が跳ねる音がした。

……環くん、告白されてるんだ。
そしてきっと、彼女の告白を受け入れた。
ああダメだ。今は誰もいない場所に行きたい。
私はその場から立ち去ろうと、踵を返すと……)





え、〇〇……っ!?


(背後から環くんの声がした。
振り返ると、そこには彼一人が立っていた。
いつの間にか、彼と女の子は話を終えていたようだ。
──聞き耳を立てていたことが、バレてしまった?
彼に合わせる顔が無い私は、その場から逃げだした)