気が付くと私は、ゲヘナの保健室で寝ていた。
あの後の記憶がない。
辺りを見渡すと、負傷者の治療で大忙しのようだった。
「あっ、カタリさん!」
救急医学部の娘が私に気付く。
慌てて近寄ってきた。
「目が覚めたんですね、具合はどうですか?」
私は軽く身体を動かしてみる。
少しだけ痛みがあるが、特に問題はなさそうだ。
「うん、大丈夫。他の皆は?」
「負傷者は多いですが、命に別状がある人はいません」
不幸中の幸いか。
あの大規模な爆発でこれだけの被害で済んだのは奇跡だろう。
未だに何が起こったのかわかっていないが。
「カタリさんが的確に避難誘導をしてくれたおかげです」
「…………え?」
私は気を失っていた。
避難誘導した記憶なんて一切ない。
「待って、私何もしてない……」
「そうなのですか?皆さんカタリさんの指示で避難出来たと仰っているのですが」
どういう事だろう。
私はあの爆発で意識を失った。
皆を助けなきゃとは思っていたけど。
「……記憶が混乱しているのかもしれませんね。避難誘導が終わった後すぐに倒れたみたいですし」
「そうなの……?何も、覚えてない」
「もう少し安静にしていた方がいいですね。落ち着いたら記憶も整理がつくと思います」
本当にそうなのだろうか。
何か、言い表せない不安を感じる。
本当に避難誘導をしたのは『私』なのか?
ベッドで安静にしていたら、風紀委員会の娘達が口々にお礼を言いにきた。
「カタリ先輩のおかげで助かりました!」
「カタリ先輩の的確な指示、格好良かったです!」
「ありがとうございました!」
何も覚えてない私は、愛想笑いしか出来なかった。
様子を見る限り、『私』が助けたのは間違いないのだろう。
そして、こんな事をいう娘もいた。
「まるで先生の指揮みたいでした!」
シャーレの先生。
先生の指揮能力は非常に高く、先生がいるだけで戦力が大幅に増加すると言われている。
『クックック……まさか、アビドスに器がいたとは。この地域は神秘に事欠きませんね』
私は黒服の言葉を思い出していた。
あの時は意味がわからなかったが、今回起きた現象に何か関係があるのだろうか。
……私は、何者なのだろうか。
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