走り疲れた私は公園のベンチに座っていた。
息を整える為、ゆっくりと深呼吸する。
「飲む?」
目の前にスポーツドリンクが差し出された。
手を出した人に視線をやる。
「……カヨコ、何でここに?」
「走ってるカタリを見かけたから。奢るよ」
「ありがとう……」
スポーツドリンクを受け取り、飲む。
冷たい液体が身体に染み渡る。
「どうしたの、思い詰めてたみたいだけど」
「それは……」
私は言い淀む。
こんな事を相談してしまっていいのだろうか。
いや、言えない。
私は作られた存在で、過去の記憶は捏造されたものかもしれないなんて。
「……言いにくいなら、無理に話さなくていいけどさ」
カヨコは私の隣に腰かけた。
私は少し横にずれる。
「カタリが困ってるならいつでも力になるよ」
優しい言葉だった。
きっとそれはカヨコの本心だろう。
カヨコは優しい子だから。
でもそれは、私と仲が良くした過去の記憶があるからで。
「……カヨコ、一つだけ聞いてもいい?」
「いいよ、何?」
「私と初めて出会った時の事、覚えてる?」
私の問いに、カヨコは一瞬だけ目を見開いた。
カヨコと初めて会った時の記憶は、私自身も無い。
気付いたら仲良くなっていた。
「……昔の事だし、詳しくは覚えてないかな。軽い挨拶した程度だったと思うけど」
すぐに平静を装って答えたが、恐らく嘘だ。
カヨコの記憶にもないのだろう。
だけど気を遣ってくれているんだ。
私が何かに気が付いていると察しているから。
『……カタリ、友達多いよね。不思議と皆に愛されているというかさ』
前にカヨコに言われた言葉を思い出す。
きっとカヨコは前から私の存在に疑問を持っていたんだ。
それでも触れずにいてくれていた。
「……そうだったね、ありがと」
私は立ち上がる。
こんな優しいカヨコに甘えられない。
私に関する記憶は、作られたものだから。
「カタリ、様子がおかしいよ。普段なら相談してる」
「……ごめん」
「謝らないでもいいけど、何を抱えてるのか聞きたいかな」
カヨコが差し伸べようとした手を、私は避けた。
「ごめん」
顔が見れない。
私はそのまま逃げるように走り去った。
「カタリ!」
カヨコの呼ぶ声が聞こえるが、私は止まらない。
もし私が今抱えている事実を相談したら、カヨコに嫌われてしまうかもしれない。
私という存在はスワンプマンで、カヨコとの友情は偽りだったのだから。
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