「作り、出された?」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。
「ええ。貴女は純粋なキヴォトス人ではありません」
「嘘でしょ?私が人間じゃなければ何だって言うの?」
ここに来るまでに会ったオートマタ。
あれは人間に近かったが、それでも一目で見分けられた。
「作り出された、というのは少し間違いでしたね。正確に言うと、貴女はある者の『願い』に反応し、偶然出来上がった」
「出来上がった?」
「雷が落ちたのですよ」
雷?
なんで急に雷の話が。
……雷。
「待って、まさか」
「ええ。お察しの通り、貴女は沼に雷が落ちて出来上がった『スワンプマン』です」
「……嘘、でしょ?」
言葉に詰まる。
嘘だ、と否定する事しか出来ない。
そもそも黒服が私に本当の事を話す義理がない。
だからこれは、嘘だ。
「残念ながら事実です。思考実験の『スワンプマン』と違って貴女はオリジナルが存在しませんがね」
「オリジナルが、いない……?」
「ええ。沼が化学反応してキヴォトス人が出来上がった。特に優れた能力も持っていない、何処にでもいるキヴォトス人が」
黒服は説明を続ける。
私はここから逃げ出したい気分だった。
「それだけではなく、辻褄合わせをするかのように貴女の存在はキヴォトスに浸透した。まるで最初からこの世界に存在したかのように」
これ以上聞いてはいけない気がする。
私の存在が揺らぐ何かを、聞かされそうで。
「貴女が役職についていないのは単純に、後から現れた存在だからですよ」
「……嘘」
「貴女が過去を一部しか持たないのは、後から捏造されたものだから」
「嘘」
「貴女が出来上がった正確な時期はわかりませんが一年以内。それ以前の記憶は全て作られたものです」
「嘘だ!」
椅子から立ち上がり叫ぶ。
黒服は私の様子など気にせずに続ける。
「特殊な生まれだからこそ、貴女の神秘はとても興味深い。器だけでなく───」
「くっだらない!!何なのそれ、馬鹿馬鹿しい!」
私は黒服の言葉を遮り、出口へ向かう。
こんな世迷言を聞いてられない。
私はスワンプマンなんかじゃないんだ。
「帰る前にこれだけは伝えておきます。私の説明に嘘はありません」
「うるさいっ!」
出口の扉を乱暴に開け、私は走る。
こんな場所に一秒も居たくなかった。
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