「別の世界線……?」
「パラレルワールドのようなものですよ。こことは別の世界がいくつも存在しているんです」
漫画とか映画とかでたまに見る、アレか。
なんらかの分岐で枝分かれした世界が並列で存在していると仮定している話。
「じゃあ先生は私の身体を使って何かをするつもりなのかな」
私が知っているシャーレの先生は善人にしか見えない。
別世界の先生はそうでないのだろうか。
「結論から先に言いますと、『シャーレの先生』は貴女の不利になる事はしませんよ。貴女が『器』である事を自覚した時も、特に害のある行動はしていなかったでしょう?」
確かにそうだ。
むしろ私がやろうとしていた事を代わりにやってくれていたように見える。
私が起きててもあそこまで上手く避難誘導出来たかどうか。
「彼の目的は『生徒としてキヴォトスを楽しむ』事なのですよ」
「……どういうこと?」
「彼は先生として生活している中で、ふと思ったのです。『生徒としてキヴォトスで暮らしてみたい』と」
シャーレの先生がそんな事を思うのか。
先生の普段の様子からは想像もつかなかった。
「それで、私に憑依しているって事?」
「ええ。とは言っても、先生の自我が表に出てくる事は少ないですがね。稀に知らない単語を口走ってしまう事はあるかもしれませんが」
……身に覚えがある。
アロナという、私の知らない単語を口走った事があった。
「じゃあもしかしてだけど、放っておいてもいいの?」
「ええ。少なくとも貴女に危害はないですよ」
「そうなんだ……」
ああ、安心した。
私の知らない間に他の人に危険な行動でもされたらどうしようかと。
……私の実力的にすぐに制圧されるだろうけど。
「それにしてもどうして私なの?他にも生徒はいっぱいいるのに」
私の問いに少しだけ黒服は黙る。
考えているようにも見えた。
「……そうですね、説明するのが私の『役割』ですから説明しましょう」
また役割か。
ゲマトリアは何を考えているかわからない。
「土御門カタリさん、貴女は選ばれたのではありません」
「たまたまって事?」
「いいえ。貴女は作り出されたのです」
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