「……ここか」
私は黒服に指定されたビルまで来ていた。
アビドス自治区の近くにある、カイザーコーポレーション所有のビルだ。
何処となく異様な雰囲気に包まれている。
「ちょっと怖いな」
引き返そうか、と足を止める。
だけどここで引き返したら、この前の現象についての謎が解けなくなる。
私が気を失っている間に、私の身体を使っていた誰か。
どうやら私の代わりに救助をしてくれたようだが、この存在が何なのか知らなくてはいけない。
「……うん、行こう」
深呼吸し、私はビルに足を踏み入れる。
ビルに入ると、受付にいる女性型オートマタに出迎えられた。
「ようこそ土御門様。ただいまご案内いたします」
オートマタが手を挙げると、受付とは別型のオートマタが現れた。
オートマタと呼ぶには随分と人間に近い。
遠目で見たら人間だと見間違える程に。
「案内役を務めます。こちらへどうぞ」
彼女は一礼する。
正確な仕草に目を奪われた。
「貴女は……?」
「私はただのオートマタですよ」
それだけ答えて、彼女は歩き始める。
エレベーターに向かっているみたいだ。
私もすぐ後ろについていく。
「このビルについて聞いてもいいですか?」
「私が答えられる事でしたら」
エレベーターに乗り込みながら彼女は答えた。
私も一緒に乗り込む。
「全然人がいないみたいだけど、ここは何に使っているんです?」
「企業秘密です」
素っ気なく答えられた。
沈黙が流れる。
「……あの、私について何か聞いてます?」
「いえ、何も」
沈黙が辛くて話しかけてみるも、会話が続かない。
会話のネタを考えていると、エレベーターが止まった。
扉が開く。
「着きました。後は真っ直ぐ進むだけです」
オートマタは手で先へ進むよう促す。
「ありがとうございました」
私はお礼を言い、エレベーターから降りた。
薄暗い廊下を進み、正面にある大きな扉まで辿り着く。
軽く扉をノックしてみた。
「どうぞ」
中から黒服の声が聞こえる。
私は少しだけ躊躇いながらも扉に手をかけ、開けた。
「クックック、お待ちしておりました」
黒服が椅子に腰かけていた、
周りを見渡してみるが、机とソファしかない。
「……用件はわかってるでしょ?器について話して」
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