「カタリさん!」
沼に入り呼びかけし続けているハルナは既に胸元まで沼に飲み込まれていた。
カタリテラーはそれを一瞥もしない。
「ハルナ……!」
「待ちなさい!」
もう限界だ。
ヒナは助けに入ろうとしたが、すぐそばにいたアルに制される。
「あのままじゃ沼に飲み込まれる」
「……カタリなら、目の前の人を見捨てたりはしないわ」
「それでも、今のカタリは……!」
「ハルナも承知の上でやってるのよ。止めては駄目」
ハルナを助けるのはカタリでないといけない。
彼女の性格を考えたうえでの賭けだった。
呼びかけに応じないなら、行動で示すしかないと。
「……もしこれがダメなら、覚悟決めるしかないね」
カヨコは呟く。
ハルナがこのまま沼に飲み込まれるようなら、もう終わりだ。
その後カタリが戻ったとしても彼女はその責任に耐えられないだろう。
そうなれば、ヘイローを壊すしかない。
「カタリさん、貴女を信じています」
ハルナは焦る事もなく、手を伸ばす。
あと少しで完全に飲み込まれそうだというのに、微笑みを崩さず。
「…………ハルナ」
───カタリテラーは、ハルナの手を握った。
「無茶しすぎだよ、もう……」
変質していたヘイローは戻っていき、生えていた翼も粒子のように消え去っていく。
顔を隠していた布も消え、表情が見えるようになった。
「無茶ではありませんわ。カタリさんなら助けてくれますから」
「……ハルナ、ありがとう」
嬉しそうに微笑んだカタリはハルナをゆっくりと引き上げる。
不思議と重さは感じず、簡単に沼から引き上げる事ができた。
ハルナを引き上げ終わると同時に、沼が消失していく。
ハルナの服に付着していた泥も粒子となって消えた。
「一人で歩ける?」
「問題ありません。カタリさんは大丈夫ですか?」
「……うん。私はもう大丈夫」
「……ふふっ、とてもいい眼をしていらっしゃいますわ。何が起きたかはわかりませんが……」
「カタリ!」
ハルナと会話していた所で、思い切り抱き着いてきたのはヒナだった。
思わず少しよろめいてしまう。
「戻って良かった……!」
「……うん、心配かけてごめんね」
「……もう会えないなんて、言わないでほしかった」
「……ごめん」
優しくヒナを抱き返し、頭を撫でる。
ユメ先輩にいつもやってもらっていたように。
「……カタリ、説明してくれるよね」
カヨコは不機嫌そうな顔をしていた。
当然だろう。
事態が悪化する前に会ったのに、カタリは説明せず逃げたのだから。
「ごめんねカヨコ。話すよ……私が何者だったのか」
→