暗闇の中、カタリは座り込んでいた。
眼を閉じ、耳を塞ぎ、何もかも拒絶するように。
カタリの脳内には鐘の音が響き続けている。
耳を塞いでいるのに少しも小さくならない。
頭がおかしくなりそうだった。
「…………!」
ヒナ達の呼びかけは聞こえない。
鐘の音に搔き消されているからだ。
聞こえたとしても、カタリは応じないかもしれないが。
友人達に合わせる顔がないからカタリテラーは顔を隠した。
どういう存在なのか見失ったから天使と悪魔の翼がどちらも生えた。
それでも他人を傷つけたくないから、彼女は銃を捨てた。
「……私はもう、戻る訳には……」
カタリは戻るつもりはない。
しかしそれでも、日常を思い出してしまう。
アビドスでユメ先輩やホシノと過ごした日々。
転校してから風紀委員として過ごした日々。
それは全て作られた記憶だというのに。
「……このまま、私はいなくなるべきなんだ」
カタリがいなくなればキヴォトスはあるべき形に戻るだろう。
後から世界に割り込んでしまった事を知ってしまった今となって、生まれるべきではなかったと考えてしまう。
たとえ作られた記憶でも、周囲の人がその選択を良しとするかは考えずに。
「……私が消えれば全て」
カタリは消えるべきだと思っている。
しかし心の中で戻りたいという気持ちが無い訳でもない。
彼女は迷っているのだ。
その事に自覚はしていないが。
「…………?」
突然、鐘の音が止む。
瞼越しにわかるほど、周囲が明るくなった。
眼を閉じてたカタリはゆっくり眼を開ける。
「……え、ここは……?」
見えた風景は電車の中だった。
少し前までは闇の中にいた筈なのに。
カタリは窓から外を眺めてみる。
砂漠がある所を見ると、彼女のよく知っている場所だろう。
「まさかアビドス?」
ネフティスグループは撤退したから電車は動いていない筈。
じゃあ今乗っている電車はなんだ。
それに、窓から見える風景もカタリが知っているものとは違う。
人が多すぎる。
まるで、アビドスの全盛期のような───
「カタリちゃん?」
───聞き覚えのある声がカタリを呼んだ。
ずっと会いたかった人の声。
しかし、会えない筈の人。
「ユメ、先輩……?」
もう終わってしまった筈の過去。
しかし、それを忘れる事は出来なかった。
太陽のような微笑みをもつ彼女は、カタリには眩しすぎる。
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