それから定期的にミカさんは来るようになった。
最初は本を読むだけだったが、段々少しだけなら会話するようになってきた。
「ウイちゃん、この本も面白かったよ」
「そうですか……よかったです」
ミカさんから本を受け取り、私は元の場所へと戻す。
彼女は本を大切に扱ってくれており、この子達も喜んでいるのがわかる。
「……ミカさんは、どうして御伽噺が好きなんですか」
なんとなく、気になった事を聞いてみる。
彼女にお勧めする時の参考になるかと思ったから。
「御伽噺というか……幸せな結末が好きなんだよね」
「ハッピーエンドが、ですか?」
「うん。やっぱり皆幸せなのが一番でしょ?」
彼女は屈託のない笑顔を見せる。
私には真似出来ない考えだ。
私はこの子達を大事にしない人がどうなろうが知ったことではない。
「私ね、話し合えば皆仲良くなれると思うの。そういう世界になったらいいなって思う」
「……難しいと思いますよ」
「あははっ、ウイちゃんもそう思う?セイアちゃんにも言われたんだよねー」
百合園セイアは今のティーパーティーのホストだ。
会った事はないが、外交を主に担当しているとか。
「でもさ、難しいからって最初から諦めてたら何も出来ないと思うんだ」
「……そうですね。主人公はそういう困難に立ち向かうものです」
「私が主人公みたいに全部解決出来たらいいんだけどねー。今のホストはセイアちゃんだし」
「……ところで、ゲヘナの人間とも仲良くなれると思うんですか?」
私の問いに、ミカさんは少し考える。
「……んー、出来ると思うよ?実際話し合ってみたらいい人かもしれないし」
その答えに驚いたと同時に、少し安心した。
ミカさんは純粋なのだろう。
このトリニティには似つかわしくないほどに。
お気楽と思う人もいるかもしれないが、これがミカさんの長所なのだと思う。
「ウイちゃんはさ、私の考えに反対する?」
ミカさんはじっとこちらを見つめる。
私は目を合わせるのが恥ずかしくなり、少し目を逸らした。
「……難しいとは思いますが、反対はしません」
「へぇ、どうして?」
「と、友達のやる事ですから応援したいです」
私の答えに、ミカさんは驚いていたようだった。
目を何回か瞬かせている。
「……ウイちゃん、私の事友達だと思ってくれてたんだ」
「お、おかしいですか……?」
「ううん、嬉しい!私もウイちゃんの事大事な友達だと思ってるからね」
眩しいほどの笑顔を見せられる。
私のような陰の者がまともに見ては浄化されそうだ。
「あ、もうこんな時間。今日はそろそろ帰るね?」
「わかりました。お気をつけて」
「うん、また来るね~☆」
楽しげに去っていくミカさん。
彼女と共に過ごすのは私にとっても楽しい時間となっていた。
一人の時間が好きなのは変わらないが、ミカさんと過ごす時間も好きになってきていた。
だけど、ある日突然ミカさんは来なくなった。
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