───迂闊だった。
その日は外から本の搬入もあり、古書館の鍵を開けていた。
作業が終わり次第締める予定だったが、立て込んでいて忘れてしまっていた。
今日は一人でゆっくり本を読む予定だったのに。
「すみませーん」
扉を開けて外の人間が入ってくる。
私は焦りながら、その人間の姿を見る。
ピンク髪に白い翼、手首にシュシュをつけている彼女。
それはトリニティの有名人だった。
「……ティーパーティーが何の用ですか」
ティーパーティーの一人、聖園ミカ。
トリニティの上層部だ。
古書館に来る事なんて滅多にないのに、
なんでよりにもよって閉め忘れたタイミングで。
「今日はティーパーティーとか関係無しで、本を探しに来たの」
「本を……?」
彼女はこちらへ近付いてくる。
何の躊躇もなく距離を詰めてくる様子に、思わずたじろいでしまった。
「図書館の人に聞いたら、こっちにしか無い本って言われちゃって」
「……その本のタイトルは、なんです?」
「これなんだけど」
近すぎる距離感に慣れず、私はさっさと用件を済ませる事にした。
貰った紙に目を通す。
そこに書かれているタイトルに、私は少し驚いた。
「……この子は」
昔に出版された童話だ。
今は絶版されており、知っている人も少ない。
ティーパーティーの人間というからには、もっと昔の資料などを要求してくるのかと思っていた。
「……ちょっと待っててください」
私は席を立ち、この子がいる場所へ向かう。
彼女が探している子を取り出し、また席まで戻って来た。
「こちらです。大事に扱ってくださいね」
「わぁ、ありがとう!」
笑顔が眩しい。
私のような陰の者には見ていられない。
「ここで読んでっていい?」
「……あちらの席でどうぞ」
「えへへ、ありがと!」
彼女はお礼を言い、テーブル席に腰かける。
そのまま先ほど渡した子を読み始めた。
私はその様子を横目で見つつ、自分も元々読む予定だった本を読み始める。
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