シャーレには当番という、各学校の生徒が先生を手伝うシステムがある。
強制ではなく、あくまで希望者のみなのだが……よりにもよってホシノとは。
もしかして狙われた?
"ごめん、ヒナからアビドス所属だった事は聞いてたから"
"ホシノがいた方が話しやすいかなと思って合わせたんだ"
あっ、善意100%。
それはそうだ、こんな遠回しな嫌がらせする意味がない。
「ちょっ、ちょっと待って下さい! まだ覚悟も何もしてないので足止めしてくれませんか!?」
「いや〜、それは無理かな〜」
声と共に扉が開いた。
私は扉に視線を向ける。
そこに立っていたのは、私がこの前見た小鳥遊ホシノだ。
「ホ、ホシノ……?」
「うん、久しぶりだね?」
ホシノは笑い、ゆっくりこちらへ歩いてくる。
昔と比べて柔らかな笑顔だが、逆に何考えているかわからない。
「今はゲヘナだっけ?」
「う、うん……風紀委員会に所属してる」
何故なのだろう、恐怖を感じてしまう。
私がホシノを怖がっているからだろうか。
「そっか〜、学園生活はどう?」
「楽しい……よ。色んなトラブルが起きるけど、その分やる事がたくさんあって充実してる」
私の返答を聞いたホシノは口を閉じ、少しの間私の顔を見つめてきた。
なんだろう、アビドスから離れて学園生活を満喫してたのが気に入らなかったのだろうか。
「……それなら良かった」
しかしホシノから出てきたのは安堵の言葉だった。
「もしかしたら今も引きずってるんじゃないかな〜って思ってたんだよね」
「……心配しててくれたの?」
声が震える。
私は本当にホシノの事を理解してなかったのだと思い知った。
「当然でしょ? 友達なんだからさ」
───ああ、駄目だ、泣く。
ホシノが私の事を友達だと思ってくれてたなんて、考えもしなかった。
「ごめん……ごめんね、ホシノ……!」
涙をポロポロと溢しながら、ずっと言いたかった言葉を言った。
感情が抑えられない。
私は泣きながら謝罪の言葉を繰り返す。
「私、怖くて……ホシノを置いて逃げちゃって……」
そんな私を、ホシノは優しく抱きしめてくれた。
「いいんだよ。あんな事が起きたら、逃げたくなるのは普通だからさ」
「でもっ……ホシノは1人で……!」
「あのタイミングで転校してくれたから、巻き込む心配がなくなって少し気楽になったんだよね」
ああ、やはり私は足手まといだったんだ。
ホシノ基準なら当然だけれど。
「今は頼れる後輩もいるし、もう心配しなくても大丈夫だよ〜」
昔は決して見せなかった柔らかな笑顔を見せるホシノ。
どうしてそんな表情をするようになったの?
ユメ先輩がいなくなったから?
後輩が出来たから?
「……ホシノ、お願いがあるんだけど」
涙が収まってきた頃に、私はホシノから離れた。
私にはまだ、やりたい事がある。
「友達として、遊びに誘ったりしてもいい?」
しっかりと目を見つめて聞く。
ホシノは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに笑顔に戻った。
「うん、もちろんいいよ〜」
「……本当!? ありがとうホシノ!」
良かった。
今度はホシノの友人として振る舞える。
ユメ先輩の為に、少しでもホシノの支えにならないと。
それがきっと、私がやるべき事なのだから。
もう二度と逃げない。
ホシノの為なら、なんだってやろう。
間接的にでもアビドス復興に助力出来たのなら、これ以上嬉しい事はない。
「先生、この場を用意してくれてありがとうございました」
"力になれたなら良かった"
私は先生にお礼を言った後、改めてホシノと連絡先を交換した。
何故か凄く気分が良い。
今日から第二の人生が始まるみたいだ。
「ホシノ、後で連絡するね!」
「うん、待ってるよ〜」
最後にそんなやり取りを交わし、私はシャーレを出ていった。
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