嘘だ。
ホシノが自分であの男の元に向かったなんて。
私もアビドスにいた頃、少しだけ話した事がある。
スーツ姿でアビドスに現れたあの大人は『黒服』と名乗っていた。
どうやらホシノの力に興味があるらしい。
しかしホシノはその要求を拒否し続けていた筈だ。
そういえば、一回だけホシノではなく私に声をかけてきた事がある。
ホシノと違って私には何か要求したりなどはしなかったが。
「クックック……まさか、アビドスに器がいたとは。この地域は神秘に事欠きませんね」
奴は私の事を『器』と呼んだ。
軽く自己紹介された後、奴は私に連絡先が書かれた名刺を押し付けてきた。
「私の考えが正しければ、貴女はいつか必ず連絡してくれるでしょう」
すぐに捨ててやろうかと思ったが、その言葉が引っ掛かって結局残している。
……なんでホシノは今更、あの怪しい大人の所に行ってしまったのか。
私が色々と思案していると、ヒナから続きのモモトークが送られてきた。
『貴女の事情は知っているから、無理はしなくていい』
ヒナはホシノと私がユメ先輩の亡骸を見つけたと知っている。
だからこんな優しい言葉を送ってくれるのだろう。
そうだ、無理はする必要はない。
ヒナがいれば戦力は足りるし、私が手伝う必要なんてないんだ。
だって、ホシノはきっと私の事なんか───
───待て。
先日ホシノと会った時、彼女はどういう反応をした?
ユメ先輩の名前を出した私の顔を見て、納得したような表情をしていた。
それはつまり、私がユメ先輩の知人だと知っているという事であり、『2年前に転校した私を覚えていた』という事を意味する。
あのホシノが、私の事を覚えてくれていた。
その事実に気付いた私は、即座にヒナへ返信する。
『私も行く。戦力にならないかもしれないけど、ホシノを助けたい』
迷いは無かった。
今まで後ろめたいとか、もう私は必要ないとか、そんな事を考えていたのが恥ずかしくなる。
そんな事はどうでもいいんだ。
本当はホシノのようにアビドスに残りたかった。
ユメ先輩の意思を継いでアビドスを復興したかった。
そして、後輩が出来たら一緒に学生生活を満喫したかった。
でも私は、逃げる選択をした。
私はいつかホシノに直接謝らないといけない。
謝る前に、少しでも胸が張れる事をしておきたい。
だから助けに行くんだ。
例え戦力にならないとしても。
『わかった。貴女の意思を尊重する』
敵は大企業カイザーコーポレーション。
一筋縄ではいかない相手だが、私も全力で戦う。
かつて見捨てたホシノの為、そして逃げ続けた私がもう一度向き合う為に。
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