「先生から見て、印象どうだった?」
彼女が去った後、ホシノは先生に問う。
雑談という雰囲気ではなかった。
"真面目で誠実な娘だと思ったかな"
昔の行いから逃げず、謝罪する事を選ぶのは難しい事だ。
結局は自分の自己満足と思われ、相手から余計責められる可能性があるのだから。
「うん、アビドスにいた頃から何事も真面目に取り組む娘だったよ」
ホシノは最後まで残っていた同期だから、彼女の事はよく覚えていた。
死体を見て転校してしまったが、それが正常な反応だし恨む事などない。
むしろ、先輩がいたとはいえギリギリまで残っていたのを感謝している。
「ねぇ先生。上手く言葉に出来ないんだけどさ……彼女に何か違和感なかった?」
ホシノの口から出たのは、抽象的すぎる質問だった。
先生は少し回答に悩んだが、ホシノの言う通り違和感を覚えたのは事実だ。
それが何なのか、先生もよくわかっていない。
"うん、ただ私も上手く説明出来ないかな。感覚的なところだと思うけど……"
彼女が演技しているとかならば、どちらかが気付いただろう。
ホシノも先生も観察力に長けている。
「昔聞いたんだけどさ、黒服が彼女を器って呼んでたんだって」
"黒服が?"
その名を聞いた先生が、少し険しい顔をする。
ホシノを嵌めようとした黒服に、良い印象は抱いていない。
「私の時みたいに、彼女を利用するつもりなのかもしれない。出来たら先生も彼女の事を気にかけてくれる?」
"うん、任せて"
先生は生徒の味方だから、回答に迷わない。
例えどんな生徒だろうと絶対に見捨てない。
それが大人の、先生の生き方だ。
「先生ならそう言ってくれると思ってたよ〜」
ホシノは考える。
必要が無いから言わなかったが、彼女の事をずっと覚えていた訳では無い。
何故か、先生と初めて会った時に思い出したのだ。
先生とは何の関わりもない筈の、彼女の存在を。
それがホシノの感じている違和感に繋がっているのかもしれない。
考えた所で答えは出ない。
情報がなさすぎるからだ。
ホシノは思考を止め、当番の仕事に集中する事にした。
VOL1『ここに至るまで』〜fin〜
ここに至るまで10