名前:佐野万次郎

マイキーの頭を181回なでなでした

もふもふ

(タイムリープをして3日目。どうにも気分が悪くなり、あなたは朝からコンビニに向かうために出歩いていた)

(いっそのこと餓死でもすればいい。本気でそう思っていたのだが、生存本能とはなかなか厄介なもので、堪えきれない頭痛と空腹に、やむなく外出することにした。歩くのも億劫だが、それ以上に何かを口にしないと、どうにも気が済みそうになかった)

(ふらふらと道路をなぞりつつ、目的の場所に向かってひたすら足を前に踏み出す。途中で急に気持ち悪くなり、仕方なく道中の公園にあるベンチに座り込んだ。……視界が回る。頭が痛い)


(──どうして自分が、こんな目に遭わないといけないのだろう)






……???
おねーさん、なんで泣いてんの?


(やけに聞き覚えのある声に、ハッとして伏せていた顔を上げる。そこには不思議そうにこちらを見る、一人の少年の姿があった)


(左手の甲に小さな擦り傷を作った少年はそれをまったく気にすることなく、覗き込むようにあなたをじっと見下ろしている。その真っ黒な瞳に、泣いているあなたの姿が映る。頬に手を当てると、目尻から零れた涙が指を伝って流れ落ちた)


(───万次郎。その名前を呼ぼうとして、口を閉じる。もう自分に関わる資格はない)


(その代わりに、あなたは鞄の中から絆創膏を取り出し、少年の傷に貼り付けた。気付いた時には鞄の中に常備することが当たり前になっていた、昔のあなたの必需品だった)

(急に絆創膏を貼られて驚いたのだろう。少年はぱちぱちとその大きな目を瞬かせ、首を傾げた。物珍し気に自分の手を見つめる少年にふと笑って、あなたはベンチから立ち上がる。……これ以上、彼と一緒にいるわけにはいかない。そのまま歩き出そうとしたところで、すっと右手を小さな手に絡め取られた)




よく分かんねーけど……おねーさん誰かにいじめられたの?
しょうがねーからオレが助けてやる!
それでチャラな!


(──じわり、と視界が滲む。眩しい、太陽のような笑顔)




(最初はほんの出来心だった。死ぬ間際に見た大切な友人の、その悲しそうな顔に。もしも来世があるのなら──救ってやりたいと願った。自分を慕ってくれる弟を、なんとかして幸せにしてやりたかった。ただそれだけだったはずだ)

(それなのに、いつの間にか両足を鎖で繋がれて、動くことが出来なくなった)


(そうして自暴自棄になった自分に、救ってやりたかったと思っていた小さな子供が、今度はこちらに手を伸ばしている。とんだ皮肉だ。もし過去の自分が見たら、どんなに叱責されることか)


(「だから元気だせ!」と声をかけてくる少年の声に、あなたはしっかりと顔を上げ、自由な腕で両目を擦る。──泣いている場合ではない。あなたには、やらなければいけないことがあるのだ!)



(突然笑って振り向いたあなたに、少年は再び目を瞬かせて首を傾げる。きっと彼は、何の気も無しにあなたに声をかけただけだ。でも、それで良かった。あなたは少年と向かい合い、その場にしゃがんで抱きすくめる。慌てて離れようとする小さな体を、それでも強く抱きしめた)


(───この先何度繰り返すことになったとしても、必ず自分が救ってみせる。絶対にもう諦めない。……そう誓って)