(──どうせ終わるなら、見晴らしのいい場所がいい)

(外の空気は、随分と息がしやすい。万次郎は屋上の縁に立ち、ぼんやりと遠くを眺める。──ここが自分の人生の終わり)
(思い返してみれば、苦しみばかりの人生だった。兄である真一郎が死んだあの日、万次郎の運命は決まったも同然だった。──いつか兄のようになりたい。あの頃の純粋な気持ちは、一体どこに行ってしまったのだろう)
(でも、もう悩まなくていい。死ねば全て終わるのだから)

(──ふと、頭の中でいくつもの声がした。それは真一郎のものであり、エマのものであり、大切な幼馴染のものであり、かけがえのない親友のものだった。「不良の時代を創る」。そう宣言した万次郎の背中を押してくれた、かつての仲間と家族)
(──「万次郎」。そのどれでもない声に、万次郎はニッコリと笑って頷く。夢の中でいつも自分を励ましてくれた声だった。ノイズで乱れて顔は見当もつかないが、その見た目の恐ろしさとは裏腹に、自分の頭を撫でてくれる手はひどく優しくて心地が良かった。もう何も信じられるものが無くなってしまった万次郎の、最後の拠り所。──きっと彼女も、よく頑張ったと褒めてくれる)
(自分は還るのだ。空に、そして自分を愛してくれた人たちの元へ)
(きっとこの世界に───もう未練なんてない)

──行くぞオマエら!!!!
(だからこそ、万次郎は笑った。これでようやく終わりにできると、久しぶりに──心の底から)


(───万次郎は知らない)
(そんな自分を諦めずに助けたいと思っている男が、死にかけてもなお、自分の手を掴むのを)

(───万次郎は知らない)
(とある病室で息絶えた女が、再び時を駆け戻り──自分を救うために、走り続けようとしている事を)

……助けてくれ、────。
(そうしてあなたの命は尽き、新たなヒーローが現れて───世界はまた巻き戻る)