名前:佐野万次郎

マイキーの頭を181回なでなでした

もふもふ

ネェ。……死なないよな?
このぐらい、……平気、だよな……?

………ネェ??


(その戸惑うような声に、あなたはイザナが小さい頃の事を思い出す)











わーっ、○○さんスゲェ!!
マジでバイク乗れてるじゃん!
カッケー!!


(──初めてバイクの免許を取ったあの日。あなたは施設の庭で、こっそりイザナを後ろに乗せて校庭を走ってやった。免許を取ってから1年間は誰も同乗させてはいけない決まりがあるのだが、イザナがどうしてもせがむので、庭でだけと約束を取り付けて乗せたのだ)

(その時のイザナの嬉しそうな顔を、あなたは忘れることが出来ない。普段は少しだけ澄ましているあのイザナが、心の底からはしゃいでいた。腹に回された小さな手の感触も、子供特有の高めの体温も、今すぐにでも思い出せる。イザナと過ごした大切な思い出の一つだった)


(それから成長し、18の誕生日を迎えても、イザナはよくあなたに強請ってバイクの後ろに乗ってきた。「運転する気分じゃねーから」。そう言いながら嬉しそうに腕を回してくるイザナは、子供の頃と何も変わらない、誰よりも愛おしい弟のままだった)



(どんなにワガママを言われても、文句を言われても、泣かれても。──その愛おしい手で幾度となく殺されようと、あなたはイザナを愛している)



(───走馬灯。目の前にいるイザナが、泣いていた子供の頃の姿と重なる。──地面に膝をつく。時間はおそらくもう残っていないだろう)


(だからこそ、あなたは笑った。同じように座り込んだイザナの目から、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。……きっとイザナも理解している。なけなしの力で、あなたはイザナを精いっぱい抱きしめた)


(「イザナと家族になれて良かった」。掠れる声で、それだけを懸命に伝えた。イザナの好きなところ、可愛いと思うところ、それでもちょっと直してほしかったところ。腕の中で小さく震えるイザナの耳元で、あなたは思いつくままに愛を語った)

(隣で泣きながらしゃがみこんでいる鶴蝶にも手を伸ばし、二人一緒に抱きしめた。鶴蝶には今までのお礼と、これからのイザナのことをお願いする。大きく首を横に振られたが、姉権限だと笑って言えば、最後には泣きながらも頷いてくれた。……鶴蝶は家族思いの、優しい子なのだ。きっとイザナを支えてくれる)


(最後にあなたはイザナの顔を掬い上げ、その額にキスを落とす。──夢見が悪いと愚図るイザナのために考えたおまじないだった)


(──生まれ変わっても、また家族になろうね。あなたはそう言って笑い、地面に腰を下ろして壁に凭れながらも、穏やかな気持ちで目を閉じる。痛みは既に無かった。きっと次に目が覚めた時は、またゼロからのやり直しだ)

(でも、それでいいとあなたは思った。何度繰り返すことになっても、あなたの心はきっともう折れたりしないだろう)













(あたたかい微睡みの中、あなたの意識が暗転する。───最後に響いた3発の銃声は、あなたの耳に届かない)


(「──家族は守るものだろうが」。そう言ってイザナが鶴蝶を庇ったことも、その命が尽きる間際にあなたの手を両手で握り、愛おしそうに「ネェ」と呼んだことも。あなたは何も知ることなく───深い眠りに落ちていった)

(…………)