────は?
(──重い音が響くと同時に、あなたの右胸に激痛が走る。それでもなんとか鶴蝶を庇うことに成功した)
(徐々に溢れてくる血液が、赤く服を汚していく。……これで撃たれたのは二度目だ。痛みに目を細めながらも、こちらを見て呆けているイザナの顔を見る。……自分の血が飛んでしまったらしく、その顔は赤く染まっている。ハンカチも持ってくればよかったかもしれない)
(あなたはフルフェイスを脱ぎ放り投げ、銃を握ったままの少年へと振り返った。──驚愕。そんな顔をして、彼もこちらを見ていた。まさか部外者が抗争に飛び込んでくるとは想像もしていなかったのだろう)
はっ、……なん、っ…○○さん!?
アンタ、なんでここに……!!
いや、それより動くな!
撃たれてる!今止血するから、そこで───(慌てている鶴蝶も随分と血を流しているのに、自分の事は二の次に必死であなたの心配をしている。それがなんだか無性におかしくて、あなたは普段の冷静さを取り戻し、鶴蝶に向き直ると「大丈夫だから」と笑いかけた。「大丈夫なワケあるか!」と泣いて怒られてしまったが、あなたにはそれが嬉しかった。すぐに自分の上着を脱ぎ、鶴蝶の傷口を止血する。「オレのことはいいから!」と抵抗されそうになったが、姉の言うことは聞くものだと無理やり押さえつけた。……これでしばらくは保つだろう)
(──それよりも今は)

───────?
(イザナ。そう名前を呼ぶと、ぼうっと突っ立っていたイザナが、恐る恐る顔を上げてあなたを見た。その目は大きく見開かれ、血走った瞳があなたを凝視する。……何が起こったのか理解できていないのかもしれない。ただ茫然と、あなたの傷口を見て黙り込んでいる)
(あなたはイザナに近寄ると、綺麗な方の袖で顔に着いた血を拭った。ひどく殴られたか蹴られたか、珍しく鼻血が出ていた。痛いかと聞いてみたものの、イザナは答えずにされるがままだ。まるで自分よりも重症なその姿に、口の端を緩めてイザナの頭を優しく撫でる。──ぐらりと、意識が揺れる。血を流し過ぎたのかもしれない)
(あなたはもう一度だけイザナの髪を撫で、ゆっくりと辺りを見渡した。──シン、と静まり返った空気の中で、とりわけ強く突き刺さる二つの視線)

(一人は血だらけでボロボロになった少年。覚えはないが、何故かあなたを見てとても驚いているようだった。そしてもう一人は──)

(───ひどく懐かしい顔だった。初めて出会った時と同じで、黒い特攻服を着た、ピンクゴールドの髪の少年。その柔らかな髪が、風に吹かれてふわふわと揺れている)
(万次郎。声には出さずに、かつての友人の名前を呼んだ。……もう痛みはほとんどなかった。きっと自分はこのまま死ぬだろう。そう確信しているからこそ、最後に友人の顔が見れたことが、あなたには何よりも嬉しかった)
(たとえ万次郎が自分の事を覚えていなくても、何度だって助けに行く。その気持ちは今でも変わらない。──いつかまた、太陽の下で。くだらないことで笑い合うのだ)
───……いやだ。
(ぐい、と服の裾を引かれる。忙しなくギョロギョロと動かしていた目を地面に縫い留めて、イザナが呟いた)
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