あ、○○さん。
……アンタにちょっと話っつーか、相談?あンだけど。
いい?
(今日も万次郎と話そうと佐野道場に訪れたところで、入り口に立っていた真一郎にちょいちょいと手招きをされて連行される。道場の離れにあるその建物は真一郎の専用の部屋らしく、そこらじゅうにバイクの部品が転がっていた。)
(いそいそとお茶を出してきた真一郎を促せば、あー、うー、と唸りながらも、此処に呼んだ理由をポツポツと話してくれた)
弟の。……イザナ、の話。なんだけどさ。
(───曰く。真一郎にはもう一人、弟が居るらしい。最近できた妹であるエマの兄で、いつかは家族に迎え入れたいそうだ。何故エマと一緒に預けられなかったのか尋ねると、なんとエマとは腹違いの兄妹だと言う。そのエマの父親は真一郎の父だそうで、兄のイザナという子は前夫の連れ子らしい)
(だからと言って兄妹をバラバラにするか?と漏らすと、真一郎は苦笑しながら自分も同じ意見だと頷いた。どうやら彼は血の繋がりなどどうでもいいらしい。まだ未成年なのに、見た目のヤンチャとは裏腹に、真一郎は思慮深く器の大きい男のようだ)
それでさ。
……まだ会って一ヶ月も経たねぇ○○さんに言うのもアレだって分かってんだけど……オレに協力してくんねえか?
オレ仲間はたくさんいるけど、家族以外の大人に頼れる奴いなくてさ…。
○○さん、まだ仕事決まってねーんだろ?
その児童養護施設、いま臨時の職員募集してるらしくて。
もちろん無理なら断ってくれていい。
オレが迎えに行けるようになるまで、イザナのこと……頼めねえかな?
礼ならする。
オレにできることなら何でも。
(床に額を擦り付けながら正座する真一郎に、慌てて顔を上げるように声をかける。……たしかにまだ仕事は決まっていないし、過去の万次郎からは義理の兄のことなど一度も聞かなかった。もしかしたらイザナという子の存在さえも知らなかったのかもしれない)
(もし彼が将来万次郎の助けになってくれるなら。──そんな打算まみれの思考を押し隠し、あなたはにっこりと笑って見せた)
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