え。……泣いてんの?
マジ?
さっきから道場の中見てっからウチに用事あんのかと思ったんだけど…。
(背後からかけられた声に振り向けば、そこには一人の青年が立っていた。先ほどの警戒するような声音から一変して、少し慌てているように見えるその目は、万次郎とよく似ている。「この家の方ですか」と聞けば、すぐにこくりと頷かれた)
(おそらく彼が万次郎の兄なのだろう。そうでなければ、あまりにも似過ぎている。あなたはすぐに自分の名前を名乗り、道場を見学したいと申し出た)
いや、そんぐらい別にいーけど…もしかして習いてーの?
ウチ基本的に子供しか募集してねーからなぁ…。
おねーさんの子供?とかじゃねーよな??
……まぁ聞くだけ聞いてやるか。こっち来て。

あ、オレは佐野真一郎。
ココはウチの道場な。とりあえずヨロシク、おねーさん。
(ニコニコ笑って手招きする真一郎の後を追いかけながら、周りの風景を見渡す)
(……万次郎の育ってきた世界。前に生きていた自分とは関わり合いのなかった世界。それがなんだか身近に感じて、あなたはふと顔を緩めた)
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