名前:佐野万次郎

マイキーの頭を181回なでなでした

もふもふ

(──それから、あなたとイザナの関係は明確に変わった)


ネェ、明日は休みだろ?
オレ暇なんだ。構ってよ。お願い。


(子供のように強請る声音に予定もないしと頷くと、ぱぁっと嬉しそうな顔をして擦り寄ってくる。──あの日からイザナはあなたのことを、名前ではなくネェと呼ぶようになった)

(15歳を過ぎたイザナは大部屋から一人部屋に移され鍵付きの個室を与えられ、それを良いことに毎日のようにあなたを招いた。仕事中は子供達に埋もれるあなたを遠くから見つめるだけで何も言わないが、仕事が終わるや否やあなたの腕を引いて部屋に閉じこもってしまう。そうして後ろからあなたを抱き込み、恨めしそうな顔で不満を吐き出してくるのだ)

(「他の奴ばっか見てオレのこと全然眼中になかった」「オレだってネェと一緒にご飯食べたかった」「荷物運ぶ時オレのこと頼ってくれなかった」。よくもまあそんなに出てくるなとある種感心をしながらも、あなたはイザナの頭を撫でる。そうすればイザナがムスッとしながらも笑ってくれるのを知っているからだ)


ネェ。明日何したい?
オレはネェがしたいことならなんでもいいよ。
なんなら部屋の中でゴロゴロしたっていいし。
ネェ寝汚いとこあるもんな♡


(頭を撫でられたのが余程嬉しかったのか、あなたを正面に抱き直したイザナがクスクスと笑う。その肩がゆったりと揺れるたびに、耳から垂れ下がったイザナのピアスがカランと涼し気な音を立てる。「──アンタが選んだアクセが欲しい」。出院したばかりの頃、イザナにそう懇願され、あなたが雑貨屋で選んで買え与えたモノだった。あれからイザナは、文字通り肌身離さずそのピアスを身につけている)


(──あなたがイザナの『ネェ』になってから、あなたは仕事以外では施設から出ることが出来なくなった)

(勿論院長に禁止されているわけではない。今までも泊まり込みが常であれ、帰宅することも許されていた。けれども最近あなたが視界から見えなくなると、イザナは情緒不安定になり、施設内を探し回るようになった。それでも見つからなければ、癇癪を起こして見境なく暴れ回ってしまう)

(一度その現場を目の当たりにした時、あなたは自主的に施設から出るのをやめた。イザナが暴れ、鶴蝶が泣きながらイザナを羽交い締めにしている光景が忘れられず、しばらく魘されるはめになった。……万次郎のことも気にかかるが、彼には真一郎がいる。今はイザナのケアに集中しようと思ってのことだった)


んー……ネェ??
オレの話聞いてんの?
おい。


(がぶりと肩を噛まれ、ハッと意識を呼び戻す。甘噛み程度で痛くはないものの、ぶすくれたイザナがいつ本気になるか分からない。一緒にゴロゴロしようかと笑えば、口を離したイザナがにんまりと笑って頷いた)