あ、○○さんじゃん!
退院おめでとー。
足治って良かったネ。
(──少年は、自らを佐野万次郎と名乗った)
(あの出会いからちょうどひと月。毎日のようにあなたの病室を訪れては世間話をして帰っていく万次郎との関係は、"この世界"で友人を作らなかったあなたにとって案外悪くはないものだった。その理由には世代が違うことも大きいのかもしれない)
(結局あの時手術室に搬送されていた親友──彼がケンチンと呼ぶ男の子は助からなかった。あの一言のあと、ぷっつりと糸が切れたように口を閉ざした万次郎の隣に座って、手術が終わるまでぼんやりしていたからこそ知った情報だった。何故彼の隣に座ろうと思ったのか今でもよく分からないが、たぶん自分の中にあるほんの気まぐれと──世界で一人ぼっちな自分と、悲しみに俯く彼がダブって見えたからだったのだと思う。あなたの気持ちはどうであれ、それが万次郎には嬉しかったらしい)
(骨折が治って退院してからも、万次郎とはよくメールや電話をしたし、待ち合わせをして一緒にご飯を食べることもあった。彼はお子様ランチが好きで、よくファミレスに行っては注文してオムライスに旗が立っていないことに文句を言って、どこか寂しそうな顔をしていた。ある日100円ショップで買った旗をこっそり持ち込んで万次郎のオムライスに立ててやった時に見せてくれた笑顔は、この世界で何も持っていなかったあなたにとって宝物になった)
(──世代は違うが、初めての友達。だからこそこの関係を大切にしたいと強く思ったあなたは、時々大勢の不良を真顔で殴り倒す万次郎を街中で見かけても、見て見ぬフリをして過ごした。仲間に『マイキー』と呼ばれる彼の声が聞こえても、なるべくバレないよう、足早にその場を通り過ぎるようになった)
(怖かったわけではない。けれども、万次郎の口から聞いていないことを知るのは違う気がした。いつか万次郎の方から話して欲しかった)
(その行動が正しかったのか、自分でも分からない。けれども『万次郎』との関係を切りたくなかったあなたは、こうすることでしか彼との友情を保てないと、そう思っていた)
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