名前:佐野万次郎

マイキーの頭を181回なでなでした

もふもふ

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(──そこは病院だった)

(あなたが"この世界"にやってきてから10年後の、忘れもしない8月4日。街中を歩いていたところを酒気帯び運転のトラックに撥ねられ、なんとか骨折だけで生き延び入院していたあなたは、こっそりと部屋を抜け出して院内散歩をしている途中で、手術室の前で項垂れている一人の少年に出会った)




(その顔には覇気がなく、ただ茫然と視線を床に落として椅子に座り込んでいる。廊下の壁にかけられた時計の短い針は既に0時を回っており、周りには誰もいない。夜の病院内ということも相まってか、不気味なまでに静寂を満たしている)

(外に出たのは失敗だったな、と後悔した。きっと手術室に彼の大切な人が運び込まれているのだろう。声をかけるどころか見ているのも不躾な気がして、足音を立てないように踵を返す)


なぁ。


(──そうして一歩踏み出そうとしたところで、背後から声をかけられた)

(まさか話しかけられるとは思わなかったあなたは、驚いて少年に振り返る。彼の目は虚ろで、こちらを見ていない。けれどもこの場にはあなたしか居ないので、やはり自分に声をかけたのだろう、とあなたは思った。「なんですか?」と返すあなたに、少年ははくはくと口を小さく動かして、絞り出すように息を吐く)


ケンチン。……死ぬのかな。


(──まるで泣いているような声に、この人は今、世界で一人ぼっちなのだろうか。そう思ったのを覚えている)