(──ぽたり、と頬に冷たい物が当たる)
(あなたは目を見開く。──昔かけがえのない親友を亡くし、それでも気丈に振舞っていたあの万次郎が……静かに泣いていた。真っ暗に澱んだ瞳の奥で、小さな星がキラキラと瞬く。兄のことを語っていた、あの日のように真っ直ぐな目だった)
(額に銃を当てながらも、万次郎は動かない。きっと自分の返事を待っているのだろうとあなたは察した。……自分勝手という割には律儀だ。こんな状況だというのに、少しだけ笑えてしまって口角が上がるのを感じる)
………?
なんで笑ってる。怖くないの?
(──あなたは"この世界"での人生を思い返した。元の世界で誰かに背中を押されて電車に轢かれ、気が付けば見知らぬ駅のホームに立ち尽くしていた。自分が知っている過去と僅かに違う世界に戸惑いながらも、なんとか生計を立て生きている途中で今度はトラックに撥ねられ、まさか呪われているのだろうかと顔を引き攣らせていたところで出会ったのが万次郎だった)
(生きることに必死で友達など作る暇も無かったあなたにとって、気さくに話しかけてくれるようになった万次郎は文字通り唯一の友人であり、可愛い弟分でもあった。──もっと不良としての万次郎に積極的に関わってやれば、彼の人生も少しは違ったかもしれない。そう思うのは驕りだと理解しつつも、今となっては後悔している部分もある)
(だからこそ、あなたは笑った。これ以上万次郎が苦しまないように、"初めての友達"として、恩を返そうと決めた)
(いいよ、と頷く。大きく見開かれた万次郎の瞳から、ぽたぽたと雫が降ってくる)
ゴメンな、○○さん。
オレ、上手く生きられなくて。
もし生まれ変わったら──今度は太陽の下で、日の当たる場所で……アンタと話したい。
くだらねーことで笑って、たまには喧嘩したりして……それでもずっとアンタと一緒にいたい。
(そう言って、涙でぐちゃぐちゃになった顔で万次郎が笑う)
(ぎこちない。……けれども、それは確かにあなたが好きだった万次郎の笑顔だった)
オレもすぐに行くから。
……またな、○○さん。

(──頭への衝撃と共に、視界が真っ赤に染まっていく)
(もし来世で会えたら、そのささやかな願いをかなえてやりたい。それだけを強く願いながら、あなたの意識は暗い海の底に沈んでいった)
(…………)