名前:佐野万次郎

マイキーの頭を181回なでなでした

もふもふ

(────だからこそ、イザナは激昂した)


(3年ぶりに再会した『妹』と一緒にテレビを見て、自分の『兄』になりたいと笑う真一郎とケラケラ笑って。幸せだ──そう思っていた矢先に、『ネェ』であるはずの○○の右手には、知らない子供の手が握られている。きっとそれだけなら、イザナはまだ耐えられた)

(しかし○○の口から零れ出た『万次郎』という音の甘さに、全身の血が引いていくような感覚に襲われる。それは間違いなく愛だった。現に○○が『万次郎』を見る目はひどく優しい。普通なら、そんな目で相手を見るはずがない。──自分だけに向けられるはずの愛を、○○はその子供に向けている。───生まれて初めての衝動だった。腹の底から、ドロドロとした、得体の知れないものが湧き上がってくる)


(イザナはすぐに立ち上がり、繋がれていた手を振りほどくと、叫びながら○○の腹を何度も叩いた。「──なんで、なんで、なんで!」いつの間にか零れてくる涙も構わずに、ただそれだけを繰り返す。不安そうにこちらを見る『妹』も、慌てて止めようとする『兄』も、今はどうでもよかった)


(これは裏切りだ。絶え間なく押し寄せてくる感情に、イザナの目が吊り上がる。○○が愛していいのは自分だけであり、その愛情の欠片一つさえ誰にも渡す義理などない。百歩譲って妹ならいい。けれども『万次郎』だけは駄目だ。自分の『ネェ』が奪われてしまう。そんな直感があった)

(呆然とこちらを見る『万次郎』に、イザナは涙に濡れた目で睨み返す。家族も兄も愛情も、そのすべてを生まれ持っている人間。──そんな奴に、奪われるわけにはいかなかった。ようやく手に入れた自分だけの『姉』は、イザナにとって何よりも尊い宝物であり、唯一自分を愛してくれる家族だったからだ)



(──そうしてイザナは佐野家に遊びに行くたびに、万次郎に敵対心を持つことになる。それは互いが大人になるにつれて少しずつ収まっていくのだが、18の年を迎えた今でも、イザナは心の底で万次郎を恐れている)







ネェ。今日もオレのこと好き?
……世界で一番? 誰よりも?


(黒川イザナは『姉』を手放すつもりはない。──生涯をかけて愛し、そして『弟』である自分を愛するべきだと、そう思っている)

(もしあなたが離れようものなら、イザナはありとあらゆる手段で、それを妨害するだろう。『家族はずっと一緒に居るべきだ』。あなたが姉になったあの日から、イザナはそう信じている)



(──ずっと兄が欲しかった。自分と遊んでくれて、笑いかけてくれて、力強く引っ張ってくれる。イザナはそんな兄が欲しかった)

(そう思っていたイザナの前に現れたのは、イザナだけの姉だった)


(──絶対にこのぬくもりを手放すものか。そう思いながら、イザナは今日もあなたの腕の中で微笑む。彼女から愛をもらってもいいのは、弟である特別な自分だけなのだから)