(──イザナが施設に入って、ちょうど1ヵ月が経った)
(イザナの環境は特に変わることもない。相変わらずイザナに友達は居なかったし、作ろうとも思ってはいなかった。そんな自分にわざわざ絡んでくる子供もいた。一人で澄ました顔をしているイザナを気に入らないと、暴力や暴言をふるってくるのだ)
(幸か不幸か、イザナには類稀なる喧嘩の才能があった。相手が右手を振り上げれば、どのように避ければいいのか直感で分かる。売られた喧嘩を買って相手を倒していくうちに、イザナはますます孤立し、当然のように一人ぼっちになった)
(ある日、大きな部屋に全員で集められ、イザナもおとなしく座っていた。なんでも新しいスタッフが増えるらしい。イザナにはどうでも良かったが、ここで生きていくためにはある程度のルールを守らなければいけない。イザナは机に肘をつき、ただこの時間が終わるのを待っていた)
(ガラリと扉が開く音が響き、一人の女が入ってくる。普通の、どこにでもいるような女だ。……妙にキョロキョロしているが)
(変な奴。──そう思って眺めていたイザナに、何故か女が近づいてきた。近くにいる誰かに用事でもあるのかと周りを見るが、そもそもイザナの席の近くには誰もいない。避けられているからだ)
(そうしてとうとう自分の目の前に立った女に、イザナは目を見開いて驚くことになる)
(───『会いたかった』。そう言って女が自分を抱きしめ、泣きだすなど──思ってもみなかったから)
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