(……これは長期戦になりそうだと、ドアの前に座り込む)
(ぼんやりと壁や天井を眺めつつ、時折思い出したようにイザナの名前を呼んだ。その度に凭れたドアに目掛けて、ぼすんと何かが当たる衝撃。……どうやら手当たり次第に物を投げつけているらしい)
(それを何度か繰り返していれば、ドンっと強い衝撃の後、ドアが軋むような音をしてわずかに撓んだ。……耳を澄ませれば、微かな息遣いが聞こえる。ドアを殴りつけたのかもしれない)
(──「イザナ」。あなたが名前を口にすれば、遮るように二人を隔てた板が揺れる。それを何度も繰り返していれば、少しずつ揺れも小さくなり、ついには何も返されなくなった。……疲れてしまったのだろうか?)
(どうすればいいか悩んでいると、コツン、と軽い音と共に、布が擦れる音が響く。すぐ側で、気配を感じる。どうやらイザナもドアの向こう側で座り込んだらしかった)
(さっきはごめんね。あなたがそう言うと、ため息と共に「二度とすんな」とお叱りを受けた。……自分が構われている時に万次郎を引き合いに出されることが、たとえ冗談でもイザナには許せないらしい。分かったと返事をすれば、背中を押される感覚がして、慌てて立ち上がりドアから離れる)

(……恨めしそうな顔をしたイザナが、ぷいとそっぽを向いてそこに居た)
…許してくれる?