名前:佐野万次郎

マイキーの頭を181回なでなでした

もふもふ

(わたわたと焦り始めるあなたとは裏腹に、万次郎の目は凪いでいた)


(まるで自分のことを知っているかのようにこちらを見つめる万次郎に、あなたは驚きながらも首を傾げる。……"今回"も万次郎とは、まだ接触していないはずだ。それにしては、あなたを見る目がひどく優しい)

(混乱しつつも冷静さを取り戻すために深呼吸しようとしたところで、ベンチから飛び降りた万次郎が、そっとあなたの手を取った)


ねえ。

アンタの名前、教えてよ。
他の誰かからじゃなくて、アンタの口から聞きたい。



(──その声音に、警戒を感じることはない。まるで昔からの友達に話しかけるような、そんな柔らかな音だった)



オレ、佐野万次郎。
アンタは?



(今度こそあなたは深呼吸をして、目の前で立っている万次郎を真っ直ぐに見つめた。その宝石のような漆黒の瞳の奥には、思わず吸い込まれそうになるぐらいの幾千もの星が眠っている。──そこにもう、闇は無かった)



(「私の名前は───」)












(───"この世界"のヒーローが何度も時を繰り返して、ついに万次郎を救ったことを、あなたはこの先もきっと知ることはないだろう。けれども、あなたが決して諦めることなく繰り返してきたその一つ一つの時間は、きっと誰かの心に深く根付いているはずだ)

(それは確実に、これからのあなたの人生に強く影響することになる。その影響が良い方向へ傾くのか、悪い方向へ傾くのか、誰にも推し量ることはできない。それが人生というものだ)



(晴れ渡る空の下で、今日も大切な人と笑い合う)

(そんな当たり前の日常がどんなに幸せか、あなたは誰よりも知っている)




(最後のページまで書き終えたあなたは、静かにそれを閉じて引き出しにしまい、鍵をかけた)

(ここにはいろいろな思い出が眠っている。楽しかったことも嬉しかったことも、悲しかったことも苦しかったことも、言葉に表せないそのすべての感情が、この日記の中にある)




(今日も新しい朝がやってくる)

(外から聞こえてくる声に、あなたはうんと伸びをしてから立ち上がり、窓の外へと大きく手を振った)



(──あなたの人生は、ようやく始まったばかりだ)