名前:佐野万次郎

マイキーの頭を181回なでなでした

もふもふ

(──会いたい)



(駆けて、駆けて、駆けて───ようやく目的地にたどり着くころには、息が切れて死ぬかと思った)


(荒れた呼吸をなんとか整えようと深く酸素を吸い込み、吐き出す。大人になってからこんなに全力で走ったのは久しぶりだ。汗が染みて張り付くシャツが気持ち悪いはずなのに、今はまったく気にならない。あなたの意識は、ただ一点だけに注がれている。──早く、早く、早く!)

(砂場、ブランコ、滑り台、鉄棒、───順番に視線を走らせて、まさか此処には居ないのだろうかと肩を落としそうになったところで、公園の端に置かれているベンチに座っている、一人の少年が目に飛び込んできた)








(まだそんなに長くない、それでいて少しだけ跳ねた淡い金色が、風に吹かれて揺れている。……紛れもなくあなたが探していた『友人』が、そこに居た)





────?


(一歩、また一歩と、あなたは地面を踏みしめて近付く。気配を感じたのか、空を見上げていた彼の顔がこちらへと振り向く。──僅かな驚きと戸惑い。まるで幽霊でも見たような顔に思わず笑ってしまったが、その手の甲を見てすぐに顔を顰め、鞄の中を探り、ハンカチと絆創膏を取り出した。……あなたが"この世界"にやってきてからの、昔からの必需品だった)

(呆然とこちらを見上げる万次郎の前に膝をつき、右手の甲についた血をハンカチで拭って上から絆創膏を貼る。今日はずいぶんとヤンチャをしたのか、膝にも擦りむいた痕があった。同じように拭って絆創膏を貼っていると、何故だか急に視界が滲んだ)


(──また会えて嬉しい。ただそれだけだった。あなたは鼻をすすりながら、全身の傷に絆創膏を貼っていく。万次郎は黙ってあなたを見下ろし、その手が止まるのを待ってくれているようだった)


(最後の傷に絆創膏をぺたりと貼り、立ち上がる。口を開こうとして──はたと、何を言えばいいのか分からなくなった。万次郎からしてみれば、突然目の前に現れた女が急に絆創膏を貼りだして泣いているのだ。……頭のおかしい大人だと思われてしまったかもしれない)