なぁ、こっちの服とかどう?
アンタに似合いそう。
(──とある日の午後。泊まりに来たイザナが突然服を買いに行きたいと言い出し、あなたとイザナは二人でアパレルショップを訪れていた)
(最近の流行りから定番モノまでしっかりと揃えられたその店は、どうやらイザナのお気に召したらしい。持たされたカゴに次々と服を投げ入れたかと思えば、何故か今度はあなたの服を選び始めている。差し出される服はどれもユニセックスの物ばかりで、確かに自分でも違和感なく着こなせるだろう。試着してみると頷けば、イザナは満足げに笑って数枚カゴに入れてきた)
試着室こっちだって。
行こ。
(空いている左の手首を掴まれ、ぐいぐいと力強く引っ張られていく。一言二言イザナが声をかけると、店員の男がすぐに一番奥の広い試着室に案内してくれた)
(試着室に入るように促され、靴を脱いでカーテンを閉じる。何故かイザナも入ってきた。さすがに店の試着室に二人で入るのは駄目だろう。ギョッとして追い出そうとすれば、ケラケラ笑うイザナに「ヘーキだって」と返された)
さっきの奴、ウチのチームの下っ端なんだよ。
だからオレらの事情も知ってんの。
それに○○さんはオレの姉貴じゃん。姉弟で同じ部屋に入って何が悪ィの?
(…………。こうなってしまうと、イザナは決して自分から出て行ったりしないだろう。あなたは小さくため息を吐き、イザナに勧められるがままに服を試着する。今でもたまに一緒に風呂に入ってるので、恥ずかしがることもない。一通り着替えて見せると、イザナはその中から何着かをカゴに戻し試着室から出て、気に入らなかった分をさっきの店員に返していた)
んじゃ、アンタの分はそれだけな。
……オレのも見てく?
(戻ってきたイザナがカーテンを引き、さっそく服の裾に手をかけたところでニヤリと笑う。あなたは少しだけ悩んでから、せっかくだしと頷いた)
───うん、なかなか良い店だったな。
アンタの服も買えたし。
あ、そうだ。今日のメシ何にする?
なんかエビ食いてえなー。エビフライとかどう?
スーパー寄って帰ろうぜ。
(大きな紙袋を片手に、空いた手をあなたの腕に絡ませてイザナが提案する。結局自分が出すと言ったものの、イザナに服を買ってもらってしまった。最近シンイチローの店でたまにアルバイトをしているらしく、今回が初給料だったようだ。……買い物に誘ってきたのも、あなたにプレゼントしたかったからなのだろう)
(「ありがとう」。そう言ってイザナの頭を撫でれば、くすぐったそうに身を捩って笑っている。今度は自分が買ってプレゼントすると申し出れば、適当な返事を返しながら、肩に顔を擦り寄せてきた)
はいはい、分かったって。ネェの選んでくれる服、楽しみにしてる。
なんなら試着する時はアンタが脱がして着せてよ。手取り足取り。なんてね。
(軽口を叩くイザナに呆れながらも、駅前にある大きなショッピングモールにはどんな服屋があっただろうかと思い浮かべる)
(……次のお泊まりまでに、イザナの好きそうな店を調べておこう)
(…………)