おい、ここはガキが来るとこじゃねーよ。帰れ。ヤベ、スゲー美人。睫毛バサバサじゃん。後ろの子も男前ー。(エレベーターの扉が開いて早々、フロント前にいた男とスタッフらしき女がこちらを振り返る。……壁中にはいかがわしいポスターがおびただしく貼られており、何処からどう見ても風俗店である。胃の痛みに腹を押さえる鶴蝶を放置し、イザナはフロントに近付くと、バンッと両手で台を叩いた)

一週間前、此処に女が来なかったか?
髪の長さがこんぐらいの、フツーの女。
△△○○っつーんだけどよ。
もし来たとしても個人情報だ。信用問題、教えるわけねーだろクソガキ。は? ンなのオレには関係ねーんだよ。
殺すぞ?
ヒュー。キマってんなー。
ちょっ……マジでやめろって!
どう考えてもメーワクだろ!?
そんなに気になんなら姉貴に直接聞けばいーだろ!!(イザナの肩を掴みなんとか穏便に済ませようとしている鶴蝶だが、後ろ蹴りされてあえなくダウンした。王の攻撃を避けてはいけないのが天竺の鉄の掟である)
なんだ揉め事かぁ?
……って、カクチョーじゃねえか。こんなとこで何して───黒川イザナ??……? なんでマイキーの犬が此処に居んだよ。
犬じゃねーよ。此処オレの家だっつの。
テメーこそ……何してんだマジで。△△○○が最近此処に来たって本当か?
はぁ? ○○さん?
確かに先週来たけど──アイツが買った女ってどれ? ぶっ殺しに来た。
………。え、それだけのために来たン?……………それだけ????
(ドラケンがそう言って首を傾げた瞬間、イザナは握っていた拳をガンガン台に振り下ろし、「そんだけじゃねーだろうが!!!!」と絶叫した)

浮気だぞ浮気!? オレを差し置いて女を買った!
ぶっ殺さねえ理由があんのか!? あ!!?
(店中に響く雄叫びに、待合室に居た客の男がビクリと肩を震わせる。打撃によりヒビが入ったフロントに、女は「マジ? スゲェ」と驚きの声を漏らしている)
バカやめろ、○○さんは女なんか買ってねーよ!
マイキーの迎えに来ただけだ!ウソつけ! 下でマイキーにビンタされてたんだろ!?
コッチは全部知ってんだぞ!!
いやそこは店の外だから見てねーよ!
そんなに疑うなら直接聞け! ○○さんかマイキーに!!うるせえぇぇええ!!
テメーに何が分かんだよ!!?
(ギャーギャー騒ぎ始めた二人に、三人の冷たい視線が突き刺さる。「コレ営業妨害だろ」フロントの奥に居る男が呟き、鶴蝶に向かって顎をしゃくった。その意味を正しく理解した鶴蝶は頭を下げ、イザナとドラケンを無理やりエレベーターに押し込み、死んだ目をしながら一階のボタンを連打した。こんなひどい休日があってたまるか。関わったオマエら全員胃に穴が空いて苦しめばいい。……後に鶴蝶はそう語る)
(────怒り狂ったイザナからあなたに電話が来るまで、あと3秒)