(『今ケンチンの家に居っからもし早く用事終わったら迎えきて♡』──万次郎から送られてきたメールに溜息を吐き、あなたは渋谷のど真ん中にあるビルの4階を訪れていた)
ん? 客……じゃねーな。もしかしてアレじゃね?
ケン坊のツレの保護者。(エレベーターの扉が開いて早々、フロント前にいた男とスタッフらしき女がこちらを振り返る。……壁中にはいかがわしいポスターがおびただしく貼られており、万次郎から聞いていたとおり、どこからどうみても風俗店であった)
(『ケン坊』というのは、おそらくケンチンくんのことだろう。あなたは肯定し、駅前で買ってきた手土産を差し出した)
おっ、今人気のシュークリームじゃん。ケン坊の知り合いにしては気が利いてんなー。
アイツにも見習わせた方がいいんじゃね?
まだ指名貰ってねーしさっそく食うわ。サンキュー♡わざわざ悪ィな。アイツの客なら次からは手ぶらでいいぜ。
コールして呼び出してやっから待ってろ。ウメーなコレ。シューサクサクじゃん。も一個食お。
ところでアンタ、あのクソガキとどういう関係なわけ??(……無事に喜んでくれたらしい。もぐもぐとシュークリームを食べている彼女と雑談しながら、万次郎たちが出てくるのを待つ。男が受話器を置くや否や、奥の方の部屋が大きく音を立てて開き、万次郎が腕の中に飛び込んできた)

ちょっ……マジで来てんじゃねーよ!?
こんなとこ来てアンタが食われたらどーすんの!?
こんなとこだって。チョー失礼。ガキに風俗の良さなんか分かるわけねーだろ。ほっとけ。
よー○○さん。まさかマジで来るとは思わなかったワ。
シュークリームサンキューな。
オレ今から仕事だし、マイキー持ってファミレス行ってやってよ。コイツ雑誌読みながら○○さん○○さんウルサくてさー。オイ! 言うなよケンチン!!
もーー行こ○○さん!早く!!(ぐいぐい)
もう帰んの?お疲れー。次は客として待ってんぞー。○○さんは客じゃねーよ!!
オレで間に合ってっからな!!
(左腕に抱き着いている万次郎の頭を撫でながらエレベーターを二人で降りる)

あービックリした!
そりゃからかう目的でメールしたのはオレだけどさぁ、もうケンチンの家に行っちゃダメだかんな!
……なんか鼻の下伸びてねぇ?
デレデレすんな!
(言われたとおりに迎えに行っただけなのに、何故か万次郎に往復ビンタされてしまった。解せぬ)