名前:佐野万次郎

マイキーの頭を181回なでなでした

もふもふ

(───帰宅途中、近くの廃墟から小さな歓声が聞こえた)


(訝しく思いフェンス越しに覗き込むと、そこには懐かしい佐野くんの姿があった。「コレ、うちのチームの特服なんだー。カッケーだろ!」──前に笑顔でそう教えてくれた真っ黒な服を着た男たちと、別の特服を着た人たちが入り乱れ殴り合っている)

(佐野くんはどうやら頭を怪我しているらしく、夥しい量の血が流れている。フラフラと歩くその足取りがまるで彼の心を映しているようで、フェンスに掴みかかり、必死に彼の名前を呼んだ。……けれども周りの騒音で自分の声など搔き消され、佐野くんの耳には届いていないようだった)





(なにやらブツブツと呟いているらしく、佐野くんの口が小さく動く。その背後を狙うように回し蹴りを仕掛けた男を振り向きもせずに一蹴し、佐野くんは歩き続け───目的の人物にたどり着いたのだろう。その足を止め、顔を上げた)





………オマエで終わり。


(拳を振り上げ、下ろす。一連の動きを繰り返す佐野くんを取り囲むようにして、周りから野次が飛ぶ。殴られている相手は既に意識が無くなっているらしく、抵抗どころか自分を庇う様子すらない。その間にも容赦なく拳を振るう佐野くんに、彼が違う世界の人間なのだと言われる理由をようやく実感した)




(──自分と話す時、彼はいつも穏やかだった。大好きなどら焼きをあげた時も、むにゃむにゃと寝言を呟いている時も、放課後に寄り道した時も。彼はいつも楽しそうに笑っていた。そんな佐野くんは今、ただ一心に相手の男を無言で殴り続けている。無表情で血を浴びる佐野くんの姿に、彼のことをほんの一面しか知らなかったのだと思い知らされた)


(確かに怖い。とてつもなく。現に足は震えっぱなしで、フェンスに掴みかかっていなければまともに立つことも出来ていなかっただろう)



(──けれども、佐野くんは友達だ。3年になって、隣の席になって。この3ヵ月の間に、彼の良いところをたくさん知った。一緒に居て楽しかった。───黒曜石のようにキラキラと輝くその瞳を、綺麗だと思った。その目にもう一度、自分を映して欲しかった)


(拳を握り締め、フェンスへと叩きつける。何度も何度も何度も。近くに居た佐野くんと同じ特服を着た男の子が振り返り、驚いてこちらを指さしている。ざわめきが広がるのも気にせずに、両手が痛くなるのも構わず、ガンガン音を鳴らし続ける)


(ようやく手を止めた佐野くんが、ゆっくりと顔を上げこちらを見る。その目が大きく見開かれた瞬間に、大きく息を吸って叫んだ)

「明日!迎えに来てくれるの待ってるから!!」