名前:佐野万次郎

マイキーの頭を181回なでなでした

もふもふ

(あれからしばらく二人で話していると、急にうつらうつらと舟をこぎ始めた佐野くんが、そのままソファに寝そべって爆睡し始めた)

(今日はケンチンくんが居ない。よって佐野くんをおぶって帰る人が居ない。うっかりしていたと後悔しつつも、此処に居ては店の邪魔になるだけだ。しばらく寝顔を眺めていたが一向に起きる気配がないので、観念して佐野くんの頬をペチペチ叩く)


ん~~……むにゃむにゃ……。

オレもう食べられない……。


(夢の中でも食べているのかと呆れつつ、「帰るよ」と声をかける。ぐずるように身を捩る佐野くんを無理やり立たせて自分の背中に抱き着かせ、肩に乗せられた両腕をしっかりと掴んで、引きずるように店を出た。残念ながら佐野くんをおぶってやれる筋力はない。苦肉の策で家まで引きずるしかなかった)




(ずりずりずり。後ろの方からつま先が擦り切れそうな音がするのを無視して、一歩、また一歩と足を踏み出す。鞄は持ち手をリュックのようにして、佐野くんの背中に預けてやった。一瞬本気で置いて帰ろうかとも思ったのだが、なんだか彼を見捨ててしまうようで出来なかった。引きずってやっているだけでも感謝してほしい)

(佐野くんは見かけよりもちょっと重くて、引きずっているだけなのに、だんだん息が上がってくる。コレを毎日おぶって帰っているケンチンくんは偉大だ。明日からもう少し労ってやらねば)


(大きなため息を吐きながらも歩いていると、おそらく寝ぼけているのだろう、すりすりと甘えるように頭を首に擦り付けてきた。……可愛い。ポロッとこぼれ落ちた本音にハッとして、恐る恐る佐野くんを見る。……良かった、佐野くんはぐっすりだ。さすがに今のを聞かれるのは恥ずかしかったので)

(その呑気な寝顔に絆されて少しだけ頭を撫でてから、気を取り直すように抱え直し、彼の家へと向かい始める。佐野くんの髪が揺れるたびに、ホイップクリームたっぷりの、パンケーキの匂いがする。柔らかくて、フワフワして───消えてしまいそうな匂いだった)





(次の日から、佐野くんは毎朝家まで来て、一緒に登校するようになった)