名前:佐野万次郎

マイキーの頭を181回なでなでした

もふもふ

(──次の日。珍しく連日登校してきた佐野万次郎に驚きながらも、休み時間に入るや否や、あなたはカバンの中に入れた和菓子のアソートパックを漁っていた。どら焼き、もなか、栗饅頭など、いろいろな和菓子がミニサイズで入っているお得用パックだ。どれもなかなか美味しいので週に一度は買って食べている)

(さてこの時間はどれを食べようかと、机の上に一種類ずつ置いて悩む。やはり王道のどら焼きか、それともちょっと特別感のある栗饅頭か。煉羊羹もいい。糖分を一気に取れそうだ)

(うんうん唸って決めかねていると、いつのまにか起きていた隣の佐野万次郎が、じっとこちらを見ていることに気が付いた。……正しくは机の上のお菓子を見ている。まさか欲しいのだろうか?カツアゲ?)


それ食わねーの?


(あなたの視線に気が付いたのだろう、こてんと首を傾げて佐野万次郎が口を開く。学期が始まってから二週間。二度目の会話だった)

(……不良のくせに、思ったより普通に話せるらしい。なんせヤンキーはこちらの返答も気にせずに欲しいものは全部掻っ攫っていく人間だと思っていたので)

(「ひとつあげようか」。ついそう言うと、佐野万次郎は目をぱちぱちさせて驚いていた。……全部食べないと気が済まない食い意地の張った女とでも思われていたのだろうか?)




マジ?
じゃあどら焼きちょーだい!


(返事をする前に右手を伸ばされ、その手でひょいと端に置いてあったミニどら焼きを掻っ攫われる。どうぞと口を開こうとした時には、すでにどら焼きは彼の口の中へと消えていた)


うまー。
オマエいい奴じゃん。名前は?


(ニコニコと笑いながらも、真っ黒な目があなたを捉える。──その瞬間、初めて自分は彼に認識されたのだろう。隣の席なのに名前も知られていなかったらしい)

(あまりにも裏表のない質問におかしくて思わず笑ってしまうと、きょとんとした顔で佐野万次郎が首を傾げた)


(今時の不良はお菓子ひとつで釣れるらしい)