名前:佐野万次郎

マイキーの頭を181回なでなでした

もふもふ

(一週間ほど観察して分かったことがある)

(まず、佐野万次郎はとんでもなく不良である。学校に来ない日も珍しくなく、気分次第でぷらぷらと街の中を遊び歩いては喧嘩をしているらしい。放課後に帰宅している途中で、似たような人種のリーゼントを無表情で殴り倒していたところを見た時は怖すぎて漏らすかと思ったほどだ)

(二つ目に、佐野万次郎には『ケンチン』という仲の良い不良がいる。クラスが違うので話したことはないが、いつも放課後になると佐野万次郎を教室まで迎えにくる。ぱっと見で厳ついのでちょっと怖いが常識はあるらしく、佐野万次郎に向かって授業中に寝るなと当たり前のことを言っていた)

(そして最後に、前述の通り、佐野万次郎は常に寝ている。もはや学校に睡眠を取りに来たのかと思わずにはいられないほど、とにかく寝ている。おかげで最初は静まり返っていた教室も、少しだけ賑わいを見せるようになった。不良とは言っても、佐野万次郎は何もなければ周りに危害を加えないタイプのようだ)


(──そんな佐野万次郎が、珍しく起きている。ぼんやりと黒板を眺めながら何か考え事をしているようだ。起きている彼が怖いのか、教室は水を打ったように静かだ)

(なんとなく、あなたは肘をついてその横顔を眺めてみた。……綺麗な顔だと思う。もしも不良じゃなければ、そこらの女子はみんな彼に夢中だったに違いない。特に宝石のような黒い瞳には、見つめているだけで吸い込まれそうな魅力がある。……まるで作り物の人形みたいだ)

(もったいないなぁ。そう思いながらも、あなたはカバンの中から包装紙に包まれた飴を取り出し、口に入れてコロコロと転がした。最近お気に入りのレモンキャンディ。酸っぱすぎるぐらいの味が、なんとなく眠気を飛ばしてくれる)




………?


(そろそろ授業の始まりを告げるチャイムが鳴る。今のうちにもう一つ口に入れておこうと飴玉の袋を破ったところで、佐野万次郎がこちらを見て首を傾げた)


なに食ってんの。


(───痛いほどの静寂。普段見向きもしないクラスメイトたちが、じっとこちらを見ているのを感じる)


(「レモンキャンディだよ」。そう答えると、佐野万次郎は「ふーん」とどうでも良さそうな返事をして、あなたからすっと目を逸らした)

(……よく分からないが、ボコられずに済んだらしい)