(──ガヤガヤと騒がしい声が響く)
(微睡みから目を覚ますと、そこは最近になってようやく見慣れた教室だった。……どうやら授業中に眠ってしまったらしい。手を組んで真上に伸びをしながら時計を見る。──あと5分で、次の授業が始まるところだ)
(今の席は一番後ろの窓側から2番目の席で、どうしても暖かい日は、こうして居眠りしてしまう。……自分が悪いのではなく、抑揚もなく話す教師が悪い。そんな責任転嫁をしながら、次の授業に使う教科書を取り出そうと、真後ろにあるロッカーに手を伸ばしかけ──)
(──がらり、と教室のドアが開き、ひとりの男子が入ってくる。途端にあんなに騒がしかった教室内がシンと静まり返り、緊張が走った)

(──佐野万次郎。どうやらあれが噂の彼であるらしい)
(ふわふわのピンクゴールドの髪に、着崩した制服。大きな欠伸をしているところからみて、かなり眠いようだ。彼はキョロキョロと周りを見回してから、一番近くにいた男子に「オレの席どこ?」と尋ねた。知らないのも当然である。なんせ学期が始まってから既に一週間が経っているというのに、一度も学校に来ていなかったからだ)
(『○○、無敵のマイキーと同じクラスじゃん!』。クラス分け表を眺めていたあなたの隣で友人が小さく悲鳴を上げていたのは記憶に新しい。無敵のマイキー。外国人なのだろうか?あなたはその名前を聞いた事がなかったので特に何も感じなかったが、もしハーフならちょっとだけ仲良くなりたいな、と思ったのを覚えている。……子供心はミーハーなので)
(なのであなたは少しがっかりした。何故『マイキー』と呼ばれているのか分からないほど、『佐野万次郎』は普通に日本人だった)
(声をかけられた男子は、ぶるぶると震えながら後方の席を指差す。「ふーん」と礼を言うこともなく、佐野万次郎は一番後ろの窓際の席──つまり、あなたの隣の席に座り、そのぺちゃんこな鞄を置いた)

一番後ろ……まーまーだな。
(どうでも良さげに呟いて、佐野万次郎は机の上に顔を伏せる。……すぐに聞こえてきたイビキに、あんぐりと口を開けて凝視した。もう休み時間が終わるのに?)
(チャイムが鳴り、我に帰ったクラスメイトたちが素早く席に着く。「お、今日はちゃんと座ってるな〜」とのんびりした口調で入ってきた教師も、佐野万次郎の姿を認識した瞬間に真っ青になった。当然のように注意されないまま授業が始まる。……『無敵のマイキー』は、確かに無敵であるらしい)
(あなたはぼんやりと授業を聞きながら、ちらりと隣の席を見た。顔は伏せられているので見えないが、イビキは健在だ。完全に寝ている。……せめて教科書で隠せよ、と思った)
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