……は?
(───佐野万次郎は驚愕していた)
(寝ているところをエマに叩き起こされて、真一郎にからかわれながらも朝食を済ませ、誘導されるがまま歯磨きをし、半分寝ぼけながらも思考を巡らせようとして───突如切り替わった自分の意識に、思わず目を瞬かせた)
(慌てて自分の体を見下ろし、ソレが『知っているもの』よりも随分と小さいことに気付く。見覚えのある、懐かしい──幼い頃の自分の体だった)
……??
なんだこれ、……?
(混乱したまま視線をキョロキョロ動かして周りを見渡してみる。見慣れた風景の中に、本来ならもう存在しないはずの断片が映る。自分の分だけ取り残されていたはずの歯ブラシが、加えて3本。奥のキッチンからはエマの怒号と、それを宥めている真一郎の慌てた声。ぺらり、と新聞紙を捲る音。──死んだはずの彼らが居る。万次郎は慌ててうがいをし、その冷たい水で顔を洗った。何度洗っても、鏡には子供の頃の自分の顔がマヌケ面をして映っている。……夢はまだ覚めない)
(そんな中、急に外から聞こえてきた騒がしい声に、万次郎の目が見開く。──聞き間違えるはずがない。死んだ幼馴染の声だ)
(万次郎は急いでタオルを手に取り顔を拭き、玄関へと走った。「万次郎、いつまで寝てんだよ!」──いつの間にか外に出ていた真一郎の呼びかけに、思いっきり扉を開ける。眩しすぎる朝日に目を細めながらも足を踏み出し──飛び込んできたランドセルを背負った黒髪の少年の姿に、息を詰まらせながらも彼の名前を小さく呼んだ)
マイキー君……!!(───ありえない。こんな奇跡が、起こっていいはずがない)
(それなのに目の前にいる彼──花垣タケミチは、その瞳をますます大きく輝かせて、自分の名前を確かに呼んだ。また会えて嬉しいと、涙をぽろぽろ溢しながらおぼつかない足取りで近付いてくる)
(万次郎は恐る恐る花垣タケミチに近寄り、その手を取った。傷一つない、子供らしい柔らかい手だった)
(その中に感じる確かな温かさに視界が滲み、胸の中に眠っていた激情が目尻に伝い、頬へと流れていく)
(これは夢ではない。現実だ。───自分たちは過去に戻ってきたのだ。まだ何も失っていない、大切な物を取り戻せる過去へ)
→