───着いた。
△△、手ぇ貸して。
手伝う。
(佐野くんにバイクから降ろしてもらい、改めて周りを見渡す)
(──そこは海だった。茜色に色付いた地平線が、ずっと遠くまで続いている。潮の香りが心地よくて、少し強く吹き付ける風が気持ちいい。キラキラと輝く水面がまるで宝石のようで、思わず目を細めてしまう)
此処。ガキの頃に、兄貴がよく連れてきてくれたんだ。
兄貴、海が好きでさ。自慢のバイクにオレを乗せて、いつも一緒に眺めてた。
(こちらを見る佐野くんの目は、とても穏やかで──悲しみを抱えているようには見えない。真っ黒な瞳は何もかもを塗り潰して、佐野くんの心を隠している)
△△。……前にも言ったけど、オマエ、少しだけ兄貴に似てる。
自分でも不思議に思うよ。
見かけも全然違うし、兄貴よりずっと弱いのに。オマエのその真っ直ぐな目が、オレに訴えかけてくる。
……オマエがあの日、オレを売らねぇで庇ってくれたとき。本当に、スゲー嬉しくてさ。
△△の背中に、兄貴の後姿がダブって見えた。
なぁ、△△。オレとずっと、これからもダチで居てくれる?
予感がするんだ。……オレの中の"衝動"が、どんどん手ぇ付けられなくなってるのを感じる。
たぶんオレはこの"衝動"に流されて、いつかたくさんの人を傷付ける。
でも、オマエが居てくれれば───もう少しだけ、オレはオレのままで居られる気がする。
もしもオレが人の道を外れて仲間と離れ離れになっても。……オマエだけは、オレの側に居てほしい。
ダメかな?
(そう言って諦めたように笑う佐野くんに──咄嗟に差し出されていた右手を両手で握り、何度も大きく頷く)
(佐野くんはきっと、いくつもの大切な物を取りこぼして生きてきたのだろう。兄のことも両親のことも、そして自分が知らないこともたくさん。……それでも彼は生きている。生きて、自分に出会ってくれた。今はただ、それだけで十分だった)
(「ずっと一緒にいよう」──そう言うと、佐野くんは一瞬目を見開いたあと、嬉しそうに、それでも困ったように笑った。いろんな感情を混ぜこぜにしたような、苦しそうで、幸せそうな笑顔だった)
(バイクに跨る佐野くんの腰にしっかりと手を回し、そのあたたかい背中に顔をくっつける。あんなにも大きく広がっていた海も、どんどん遠く見えなくなっていく)
(──いつか佐野くんが、本当の意味で自由になれるといい。目を閉じながらそう思った)