(万次郎と一緒に暮らすようになって一週間が経った)
(ゆっくり養生していたのが良かったらしく、擦りむいていた足の裏もほぼ治り、自由に歩き回れるようになった。今日は万次郎と一緒に森に入り、野生の果実を採取している。長く生きている万次郎は知識もなかなか豊富で、毒の有無などにも詳しい。あなたは知らず知らずのうちにサバイバル知識を身に着けていた)
ふぅ……そろそろ疲れたんじゃない?
休憩しよ。ハイ、おにぎり。
(倒木に腰かけた万次郎に習い、自分も隣に腰を下ろす。手渡されたおにぎりはツヤツヤしていて、見るからに美味しそうだ。……この一週間、毎日自分のために米を炊いてくれたおかげか、彼の料理スキルも比例してメキメキ上がっていた。一緒に暮らす身としては嬉しいことである)
(「おいしいね」──本当に美味しくて無意識のうちに感想がこぼれる。万次郎はちらりとこちらに視線をやったが、それだけだ。……が、僅かに尻尾が揺れている。褒められて嬉しかったらしい)
(そっけなくみえて、万次郎はとても優しい。さりげなく気を回し、人間である自分が暮らしやすいように立ち回ってくれている。「ニンゲンと妖怪は違うから」──そう言って距離を取ろうとするくせに、意外と押しに弱く、絆されやすい性格だと思う。前に寒いと駄々をこねて二人同じ布団で眠ったとき、困ったように、それでもほんの少しだけ頬を赤らめて笑ってくれたのを見て確信した。その日はとてもよく眠れて、それからは自然と二人で寝るようになった。今では先に布団に潜った万次郎の方から「まだ寝ないの?」と声をかけてくるぐらいなので、本来は甘えたな性分なのだろう。まだ狐だった頃、そうやって兄にべったり甘えていたに違いない。そんな万次郎を可愛いな、と思ってしまうのも、仕方のないことだと思う)
(おにぎりを食べ終え、そっと万次郎にくっついてみる。ゆらゆら揺れていた尻尾が、静かに背中へと巻き付いてきた)
もう少ししたら日が暮れる。
そろそろ帰ろ。……立てる?
○○は体力ザコだから心配。
(「万次郎がずっと尻尾触らせてくれたら元気出るから大丈夫だよ」──にっこり笑ってフワフワの尻尾を撫でれば、「……バカじゃねーの」悪態を吐きながらも、綺麗な顔がそっぽを向いて見えなくなった)
(……それでも尻尾は巻き付いたままだった)