(──夜。あなたは万次郎が眠っている隙に出かけようと、こっそり布団から抜け出した)
(きっと万次郎は、自分を村には行かせてくれないだろう。しばらく一緒に暮らしていたからこそ分かる優しさに、申し訳なく思ってしまう。それでも自分の目で確かめなければならない気がした)
(そのまま引き戸に手をかけて──カタリとも動かない扉に、僅かに冷や汗が流れる。鍵は開いている。……自分の手が動かないのだ)

ねぇ。何してるの?
……オレ、ダメって言ったよね?
(───気が付くと、あなたは布団の中に居た)
(まだ夜は明けていない。……何か忘れている気がする。眉間を寄せながら唸るあなたの胸元で、万次郎は気持ちよさそうに眠っている)
(思い出せないのなら、きっと些細な事なのだろう。あなたは万次郎の頭を撫で、もうひと眠りすることにした)